第57話 発覚

 どうしてこうなった。

 どこから漏れた。

 作戦は完璧だったはず。なのに……。


 どうしておれたちは今、校長室でこの人たちと向き合っているんだ。




────

「みんな、帰ろう」


 【水精霊王・ウンディーネ】を倒し、れいの呪いを解くためのアイテム“水精霊王の結晶”を手にしたかけるたち。疲れこそあるが、今は達成感からパーティー全員が明るい表情をしている。


「疲れたー。終盤はもうヘロヘロになっちゃってさ。助かったよ」


 凪風なぎかぜが後ろで手を組み、歩きながら言葉を漏らす。


「いや、凪風がいなかったら【地の鎮守ちんじゅ・アースガルド】にも勝てていない。こちらこそ本当に助かった。ありがとう」


「……なんかそう言われると照れるな」


 翔に真っ直ぐ褒められて照れる凪風。


「はっはっは! その通りだぞつばさ。自信を持て、自信を」


「どっかの自信バカとは違うんだよ」


 いつもの様子で話す凪風と豪月ごうつき。中学の時はバチバチであまり話さなかった、という事実を翔は未だに信じ切れていない。


「とにかく、良かったよね! すっごく長かった気もするけど、達成感であふれてるっていうかさ!」


「うん。みんな、本当にお疲れ様だよ」


 夢里ゆり華歩かほも達成感に浸っているようだ。


「全員、今日はぐっすりだな」


 話に花を咲かせながら、翔が第21層の扉に手を掛ける。


「よし、これで──」


「武器を置け」


「!?」


 翔が扉を開いた瞬間、そこには複数の探索者と思われる人たちが待ち構えていた。それぞれ胸辺りに“JAPAN PUBLIC SERCHER”と刻まれた装備を身に付けている。

 その内一人は、“仕込み”を行った時に翔たちに話しかけてきた三十代程の人物。また検問の時、転移する翔たちを腕を組んでじっと見ていた髭面ひげづらの人物もいる。


「言いたいことはわかるか?」


 あまりの一方的な圧に翔たちは手を上げるしかない。一人を除いては。


「おい! オレたちは──」


「騒ぐな」


 反抗の態度を見せた豪月に躊躇ちゅうちょなく拳銃を向けたのは、検問で翔たちをじっと見ていた髭面の男。

 だが、これには翔も黙ってはいない。


「それは人に向けていいものじゃない」


「──!」


 翔が仲間内には見せた事のない目つきで男をにらみつける。それには隣に立つ華歩・夢里でさえも目を見開き驚いてしまう。


「その通りだ。それは一旦下ろせ」


「……本当に撃つわけじゃねえよ」


 仕込みの時に会った三十代程の男性が、髭面の男の銃を下ろさせる。


「君達、こんなことをしてすまない。脅すつもりはないんだ。ただ、話を聞きたい。こちらも仕事なんでね」


 髭面の男とは違い、三十代程の男性は物腰柔らかのようだ。


「何をすれば良いんですか?」


「そうだな。とりあえず転移装置ポータルで戻ってもらおうか」





 それから翔たちは二人を含めた“JPS”の人たちに連れられ、専用道路を使って学校へと赴く。作戦遂行からの発覚、帰りの道で翔たちの会話は無かった。

────





「まず何から話そうか」


 三十代程の男性が始めに口を開く。おれたちは五人揃って横に並び、正面に“JPS”の人たち、校長室の奥側に校長という並びで座らせてもらっている。


「こいつらだろ、侵入したの。目的からはっきりさせようや」


 髭面の男は相変わらず威圧的な態度だ。


「目的はあるアイテムです」


 ここはおれが答える。他の四人には絶対に迷惑をかけられない。いざとなればおれが全て罪を被る覚悟で──


「そのアイテムを取りに行こうと僕が提案しました」


「凪風! お前──!」


 凪風はこちらをちらっと見てくる。

 待て、それはダメだ。お前はここで一番を目指すんだろ!


「ああ? くだらねえ友情ごっこはいらねえんだよ。何がアイテムだ。本当の目的を言え、の目的を」


 本当の目的?

 この発言にはこちらは首を傾げるしかない。もしかして何か誤解があるんじゃないか?


「アイテムが目的なのは本当です!」


 夢里が強い言葉を発する。


「……嬢ちゃん。それはすぐに行かなければならない急ぎの用だったのかい? 別にそうじゃ──」


「急ぎの用です!」


 夢里は髭面の男の威圧的な質問にも臆することなく、自分の意見を述べる。夢里が今回一番気持ちを入れていたんだ。誤解があるなら言っておかなければならない。


「……」


 髭面の男は検問の時のようにおれたちをじっとみる。


「その話は本当です」


「「「!」」」


 麗さん!?

 校長室の扉を開け、話に割って入って来たのは麗さんだ。


「皆さん、そして校長、私が入る事をお許しください。この者たちには事情があるのです」


 麗さんが“JPS”、校長に深々と頭を下げる。


「ぜひ話を聞かせてください」

「いいでしょう」

 

 どちら側も麗さんを受け入れるようだ。


「では僭越せんえつながら、このまま話を進めさせてもらいます」

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