第56話 覚醒職の真骨頂
「どうなってるんだ」
【水精霊王・ウンディーネ】。以前、
──ギュァァァァ!
目は血走り、青黒い光線が目から漏れ出ている。さらに激しい咆哮と共に、周囲を回る濃い青色の水流を周りに発生させた。
(まずいわ!)
「フィ!? どうした、何がまずいんだ!」
あまりに強力な気配ゆえに、感知しにくい翔の内側からも何かを感知するフィ。
(うまく言えないけど、【ウンディーネ】の水色の気配がどんどん濃くなってる! 目的の“水精霊王の結晶”は透き通った水色のはずなの! このままじゃまずいわ!)
「黒く染まっていっている、ということか?」
(多分! とにかく早急に倒さないと、目的の物は手に入らない可能性があるわ!)
「まじかよ!」
翔は周りを見渡す。
ここまで『魔法』による撃退を頼り切っていた
どうする……!
「オレに出来る事はあるか? 兄弟」
隣から太い声が掛かる。
「私も、出来ることがあるなら何でも言って!」
「豪月、
(! 待てよ、あのバカでかい水流竜巻。豪月の“
「二人とも──」
「ここだ、突っ込むぞ
豪月を先頭に、そのすぐ後ろに翔が付く形で二人は【ウンディーネ】へと距離を詰める。凪風をこれ以上前衛で張らせるのは危険という判断だ。
──ギュァ!
【ウンディーネ】が左右両側から水流竜巻を豪月に向かって打つ。水の性質と高速回転が作用し、かなりの殺傷力を持った攻撃だ。
「ふぬっ!」
だが、豪月は臆することなく真正面から両拳で二つの竜巻にぶつかる。
豪月の拳と水流竜巻が
「ぐおおお!」
「豪月!」
豪月は、自身よりもかなり大きな二つの水流竜巻を両拳で粉砕する。水流竜巻はその大きさから、攻撃ではなく
翔の判断は見事的中。
(大型の攻撃ゆえに
豪月の物怖じしない性格と揺るぎない自信。それらが完全に豪月の
「どうした、そんなもんか!」
完全に調子に乗る豪月。そんな豪月に向けられた目から放たれたのは、
「むっ──」
──ギュァッ!
青黒い光線だ。フィが感知した、気配が濃くなっていることに合わせてか、先程よりもさらに色濃くなっている。
咄嗟に拳を差し向ける豪月だが、
「うおっ!」
パァン、と音を立てて豪月の目の前で光線が弾かれる。夢里の銃弾だ。
「それは破壊出来ないでしょ」
夢里も今回の探索でさらに正確さを増し、戦況が良く見える位置から全体を把握しながら戦い抜いてきた彼女も、かなりの成長を遂げている。状況判断・タイミングという点でかなり優秀だ。
「ありがとう、二人とも」
そんな彼らもここでは援護。近付けさえすれば、翔の出番だ。
──ギュアアッ!
(分かってるよ!)
【ウンディーネ】は人魚のような
その攻撃が来るのを分かっていたように体を
<二連撃>、斬り返し、<
次への繋ぎが良く、間に一振りを入れた今出来る最大の組み合わせである六連撃。すでに戦ったことのある【ウンディーネ】に対しては核の位置もわかっている翔。その位置を中心に的確に斬る。
だが、【ウンディーネ】は倒れない。
「剣もまだまだ磨いていかないとな。でも今は一旦、これで最後だ」
翔が懐から取り出したのは華歩より預かった杖。杖の効果により、己の手から出すよりも大きな威力の『魔法』を放つことが出来る。
「苦しそうだ。楽にしてやる」
杖の先、大きな鉱石で創られた部分が強く光る。
“あらゆる武器種の性能を引き出す”、翔の“
「『中級魔法
残りMPを全て使い切り、【ウンディーネ】の頭上から一筋の
【ウンディーネ】は成す術なくそのまま地面へと落下し、今の『魔法』で核が壊れたのか、消滅が始まる。
「す、すごい……」
凪風が言葉を漏らすが、当の翔は納得がいっていない様子だ。
(たったこれだけでMPが切れてしまうのか。まだまだレベルを上げ続けないとな)
今の『魔法』に対しても、満足に『魔法』を扱えないMP値に対しても、少し物足りなさを感じる翔であった。
「よくやった!」
「翔ー! さっすが!」
豪月と夢里が翔の元へ寄ってくる。後ろには戦線を退いていた華歩と凪風も一緒だ。
「かーくん、信じてたよ」
「敵わないなあ、天野くんには」
ほとんど限界である華歩と凪風も、ようやく終わった開放感からか笑顔を取り戻している。
「で、それが……そうなんだな?」
「うん。間違いないよ。これが、」
翔は【ウンディーネ】からドロップしている水色に透き通ったアイテムを右手に取り、上に掲げる。
「“水精霊王の結晶”だよ」
全員がほっとする中、特に夢里は目元を抑える。
「これで……麗さんを治せるんだよ、ね?」
「ああ、もう安心していいよ」
翔の言葉で顔を覆った夢里に、翔は彼女の肩をぽんぽん、と叩く。
(ずっと責任を感じていたんだろうな)
翔は思案しつつ、奥の扉の方を向く。
「みんな、帰ろう」
★
「──そうか、分かった。……ああ、助かったぞ」
端末を顔の近くから離し、通信を切る
「さて……どうしたものか」
少し上を向き、病室で一人ため息交じりに考え込む麗であった。
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