第17話 おまたせ

 第3層、“隠し部屋”。誰の仕業か、“隠し部屋”へと続く、本来見えないはずの扉は開かれている。

 そこに幸か不幸か、【ホブゴブリン】を狩りにきたパーティー、そしてその中に参加しているレアアイテム狙いの華歩かほの姿がある。


「がっ──!」


 パーティーの盾役タンクであるリーダーの男は【ホブゴブリン】に首を掴まれ、宙に浮かされている。


(そんな! どうして!)


「そいつを離しやがれええ!!」


 パーティー内であねさんと呼ばれる女性は、鬼の形相ぎょうそうで自身の槍を必死に【ホブゴブリン】に突き差す。だが、効いている様子は皆無だ。


「……」


 もう一人のナイフ使いの男性はすでに倒れ、地面に伏している。


(こんなに、強いの……?)


 自身の職業ジョブから後衛を務めていた華歩は無事ではあるが、昨日の恐怖も相まり、すでに戦意は喪失している。もはや立っているのがやっとだ。


「「グウゥウゥゥ……」」


(【ゴブリン】!? しっかりと追い払ってきたはずなのにもう湧いてきたっていうの!?)


 華歩が焦るのも無理はない。パーティーは【ホブゴブリン】に健闘した方だが、全体的な火力のなさから。それは【ゴブリン】が湧き始めた事実が物語っている。


(お願い。お願いだからこっちに来ないで……)


 【ゴブリン】はすでに獲物としか見ていない華歩に徐々に近付いていく。

 かろうじて立っている華歩を警戒しているのだ。

 だが、警戒よりも性欲がまさった瞬間──それは狂気に変わる。


──グゥゥオァアァァ!


 華歩は杖を強く握り、ぎゅっと目をつぶった。


「かーくん!!」


 どうしてその名を呼んだのかは分からない。もしかすると、ふと昔のことが脳裏に浮かんだのかもしれない。


 来るわけがない。しかし、そんな場面で来るのが勇者である。


「嫌な予感したんだよね」


「!」


 華歩はその声を聞いてゆっくりと目を開ける。

 開いた目はすでに【ゴブリン】を斬ってこちらを向いている少年の姿を捉え、やがて潤いであふれていく。


「なんでまたいるのか分からないけど……おまたせ?」

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