第18話 本音

 おれの姿を見た華歩かほは力が抜けたのか、その場にペタンと座り込んでしまった。一旦は大丈夫そうだ。

 ならば、次はパーティーを助ける!


「うあああああ! ッ! ッづあ!」


 男性二人が地に伏している中、女性が声にならない声で応戦している。

 ちょっと割り込めそうにないな。おれがあの人に突かれそうだ。


 おれはその場に転がる小石を拾う。



 <照準計算> <ヘッドショット> <飛弾ガン


 

 狙いが定まったところで小石を親指で思いっきりはじく。これに反応できる魔物はそうそういない。


 カァンッ! と勢いのまま【ホブゴブリン】の頭に命中、視覚外からの攻撃にそいつはよろける。これもあの女性が必死に戦っている戦果と言えるだろう。


 がら空き!



刺突一閃イスパーダ



 地面を力強く蹴り、魔物の“核”ごと貫くように剣を突き刺す。

 <スキル>補正が乗った剣は弱かろうと簡単には折れない。


 目を見開き驚く女性を横目に、時間がゆっくりになる感覚の中で【ホブゴブリン】が後方へと倒れていくのをおれは見ていた。


「ちょっと! 置いて行かないでよ!」

「ほんとよ! 急に本気で走り出すんだから!」


 遅れてフィと夢里ゆりが到着。

 道中の魔物は道すがら斬ってきたから大丈夫だったはずだ。




 フィと夢里は【ホブゴブリン】と戦っていたパーティーを助けるのに尽力してくれている。怪我人もいるため、買っておいた“脱出陣”で先にダンジョン街へ戻るそうだ。


「……華歩?」


 おれはへたりこんだままの華歩に手を伸ばす。その手を素直にとった華歩だったが、


「どうして」


「?」


「どうしてなのよ!」


 華歩が上げた声に反応している夢里たちに「気にするな」と合図をして見送る。


「どうしたんだ?」


 華歩は少し潤んだ、強い目でおれを見た。


「この前までこれっぽっちも興味なかったじゃない! それどころかダンジョンの話をする度に下を向いて! うつむいて!」


 彼女がダンジョンの話をしなかったのはおれを気遣ってだったのか。


「それなのに! どうして、どうしてそんなに君は強いの? わたしだって強くなりたい。それなのに、それなのに! ……おしえてよ、ねえ。どうして……どうして、わたしは、こんなに弱いの?」


 華歩が感情のままの言葉をおれにぶつけた。

 昨日の彼女が怒ったことにも納得がいった。

 そうか。おれが考えていなかったんだ。これが、彼女の本音なんだ。


 初めてだった。

 彼女のこんな顔を見るのは。彼女がこんなに感情をあらわにするのは。

 彼女が、異世界で散々見てきた人たちと顔をするのは。


 上を向いて少し考えた後、ふう、と一つ息をつく。

 おれの口は自然と動いていた。


「華歩、聞いてくれるか? おれが異世界転移をした話を」

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