第14話 彼女の態度

 おれの剣と【ホブゴブリン】の棍棒がガキンッ! と激しい音と共に交わる。


「くっ!」


 剣が弱い。【スライムソード】では、奴の棍棒と筋力のゴリ押しに負けかねない。

 それならっ!


夢里ゆり! 急所じゃなくてもいい! こいつを打ちまくってくれ!」


「わかった!」


 夢里は掛け声に反応して、すぐさま援護射撃を開始する。 

 【ホブゴブリン】の意識を分散させる作戦だ。


 その間、夢里にヘイトが向き過ぎないよう調整しつつも、おれは使いこなせると判明している<スキル>で奴を倒す策を練る。<スキル>の補正があれば剣が弱くても頑丈なこいつを倒せる。


 ゴブリン種は力はあるが、知能は低い。それなら、“速さ”で勝負だ!



瞬歩しゅんほ



 移動系<スキル>で腕の下を潜り込み、背後を取る。

 全盛期には遠く及ばないが、今はこれで十分!



<急所特定> <部位破壊> <一刀両断> 



 構えと狙いから一挙に複数のトリガーを引いた後は、剣に主導権を持っていかれぬよう剣を強く握りしめる。

 <スキル>が発動し、おれの剣は【ホブゴブリン】の右肩から左の腰にかけて一刀両断、一太刀で真っ二つにする。


──グガァァアァ!


 最後の雄叫びを上げた後、部位破壊と同時に魔物の急所である“核”を切断された【ホブゴブリン】はその場に倒れていく。


「す、すごい……」


 後ろから夢里の漏れた声が聞こえる。夢里に合わせて良い具合に力を調整していたのがバレてしまったかもな。


「「グゥゥウゥ……」」


 取り巻きの【ゴブリン】たちは、親玉をやられたことで膝を震わせながらも、まだ若干の戦う意思を残している。

 しょうがない。





「たす、かったわ。あり、がとう……」


 【ゴブリン】を一匹残らず蹴散らした後もおびえがぬぐい切れていないのか、華歩かほは声を震わせている。


「ごめん、来るのが遅れたよ」


「ううん、大丈、夫……よ」


 夢里も気を遣い、おれたちについて何も質問してくることはなかった。

 これ以上ここにいても仕方がないので、おれが先導し、夢里が華歩に肩を貸す形で転移装置ポータルを介してダンジョンの入口まで戻る。幸い、帰り道にはまだ魔物は沸いていなかった。








「落ち着いた?」


「うん、本当に助かった。ありがとう」


 各々装備を“ストレージ”内にしまい、シャワーを浴びた後にダンジョン街のカフェで集まった。


「ねえ、聞いていい?」


「なに?」


 華歩が口を開く。


「どうして、君はあんなに強いの?」


「それは……」


 異世界転生で全てを身に付けたから。これが答えだ。でも、こんなこと言っても信用してくれるかも分からない。変な誤解を生むのも嫌だ。ここはうまく誤魔化そう。


「いやあ、なんでだろうねーほんとに! 気付いたら、みたいな? あははっ」


 その言葉で華歩の目が変わった。


「嘘つき!」


「……えっ?」


 いきなり声を大きくした華歩に少し驚いてしまう。


「ど、どうしたの?」


「気付いたらって、それであんなになれるわけないでしょう!」


「だからたまたまだってー」


 何度も聞いて来るが、おれはその度に誤魔化す。


 そのうち、おれのヘラヘラした態度に我慢の限界がきたのか、華歩は机をバンッと叩いて立ち上がる。彼女の目は激しくおれをにらみ、少しの間沈黙が続く。


 また、そんな彼女に耐えかねて夢里が初めて口を挟む。


「ちょっと、その態度はないんじゃない?」


「……」


 華歩の目の先が夢里へ移る。


「あなたを助けたのは私たちが自らやったことだよ。襲われていたのを見逃したくもない。けど、助けてもらっておいてその態度はどうかと思うよ」


「……そうね。悪かったわ。今日はありがとう。わたしはこれで失礼するわ」


「華歩……」


 そっけない感謝の後、華歩は自身の“ストレージ”から三人分のお代をDP(ダンジョンポイント)で机のモニターから支払い、そのまま行ってしまった。


「なんなの、あいつー」


 夢里は頬杖ほおづえをついて不満を漏らしている。


「普段はああじゃないないんだ。混乱していたんだよ、許してあげて」


「別にいいけどさー」


 おれは自分の口から出た言葉に自分で納得する。


 本当に普段とは全然違った様子だった。華歩、どうしちゃったんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る