第2話 <ステータス>

 ダンジョンが出現した場所にはダンジョン攻略、産業の発展をスムーズにするため、“ダンジョンがい”と呼ばれる発展した街ができることが多い。


「あー、あんな感じだったなあ」


 休日の朝早くからにぎわったダンジョン街より、すでにその巨大なダンジョンの入口が見える。懐かしさと共に現代ダンジョンに初めて訪れた高揚感が混じり、なんとも言い表せない感情だ。

 総じて、おれは多分している。


 現在、日本に出現しているダンジョンは四つ。北から北海道、東京、大阪、福岡に一つずつだ。おれが今来たのは「東京ダンジョン」。ネットから拾った情報のみだが、異世界基準の難易度でいうとおそらく下の上といったところだな。


 まあいい、早速受付を済ませよう。





「すみません、ダンジョンに潜りたいのですが」


「はい、こちらで受付をしておりますよ。ダンジョンは初めてでしょうか」


「はい、今日が初めてです」


「かしこまりました。ちなみに<ステータス>は使えますか?」


「いえ、使えないです」


 おれの答えがよほど珍しかったのか、受付のお姉さんはえっ、と一瞬戸惑ったように見えたが、さすがはプロだ。すぐに笑顔を取り戻して案内を続けてくれる。


「かしこまりました。それでしたら、あちらの“ダンジョン入門所”で<ステータス>を覚えてこられることをおすすめします。失礼ですが、見たところ武器・防具等もお持ちでないようですので、そちらも揃えてみてはいかがでしょうか」


 武器・防具か。そういえばそうだな。異世界では【勇者の装備】一式だったが、ここでは一から取り揃えないとな。


「わかりました。ありがとうございます」


「はい。ダンジョンへ潜られる際はまたこちらへお越しくださいませ」


 優しく手を振ってくれる受付のお姉さんに手を振り返し、その場を後にする。

 ダンジョン入門所はすぐそこだ。名前からして、栄えたこのダンジョン街の中でも特に初心者向けに開いている店なのだろう。


「お、おおー!」


 店を開いた瞬間に目の前に広がる装備の数々。正直、どうせ装備なんて見慣れているしなあ、などと思っていたが、現代で実際に目にすると柄にもなく感嘆の声を上げてしまう。


「ふふっ」

「かわいいわね」


 ……周りからは若干微笑ましい目で見られている。初々しく思っているのだろう。よく見ておけよ、これが将来勇者になる顔だぞ。


 そう思って小さな自分を奮い立たせながら、装備を見回る。なるほど、やはり入門所というからには良心的な値段ではある。


 【木の盾】 5000円 (500DP)

 【木の剣】 5000円 (500DP)

  ・

  ・

  ・


 値段の横、このDPというのはダンジョンポイントの略で、依頼や功績、その他ダンジョン関係に貢献をすることでもらえるダンジョン街限定の通貨らしい。まあ、今のおれには関係が無いかな。


 初心者向けにそれほど重くもなく、それでいて第1層の魔物なら狩れるであろう木製の装備がずらっと並んでいる。これでいずれ一攫千金を狙える可能性があるならば、お安い費用だ。お年玉を貯めておいて良かった。


「おう、そこのにいちゃん。装備は<ステータス>に書いてある職業ジョブに合ったものを選択するのがおすすめだぜ。剣士系なら剣、魔法系なら杖、みたいにな」


 入門所の入口にあった看板マークと、同じマークが記された服を着たおじさんに声を掛けられる。この店の店主さんかな。


「すみません、先に<ステータス>を覚えたいのですが」


「おっとこれはすまねえ、<ステータス>がまだだったか。それならこっちにきな」


 店のおじさんに案内されるがまま奥へと進んでいく。


 やがて案内された場所にあったのは、紋章が書かれた台座だ。

 その台座の上でおれは手をかざす。おれの手が触れた瞬間、紋章は反応を示し、放たれた微光はゆっくりとおれの体へ取り込まれる。


 ……この、光が体に取り込まれて馴染む感覚、<スキル>を獲得する時と同じだ。


 異世界には<ステータス>というものが存在しなかった。

 もしかしたら<ステータス>は現代の人間に適用された<スキル>の一種なのかもしれない。


「よし、これで終わりだ。にいちゃんの光、なんだか見た事ない綺麗な色をしてたんだが、なんの職業ジョブなんだ?」


 見た事ない光? はて、なんのことやら。

 おじさんにも促され、おれ自身も気になってしょうがないので早速<ステータス>を確認する。



<ステータス>

天野あまの かける


職業ジョブ “???”

アビリティ:???


レベル:1


HP :100/100

MP :10 / 10

筋力 :1

敏捷力:1

耐久力:1

運  :1

魔力 :1

 ・

 ・

 ・



 ……弱すぎない? それともみんなスタートは全パラメータ1なの? 分からない。

 

「どうだった?」


「うわ!」


 その下にも<ステータス>が続いていたみたいだったが、おじさんの声に反応して咄嗟とっさにそれを閉じてしまう。スマホを覗かれた気分だった。


「おっと、わりいわりい。<ステータス>は他人からは見えねえから安心しな」


 そうなのか。それにしても職業ジョブは???だったな。これってやっぱり無職業ノージョブということなのだろうか。


「武器は……剣にします」


 落胆している気持ちを必死に取りつくろい、とりあえず勇者をしていた異世界と同じ武器種の【木の剣】を購入する。


 職業ジョブの潜在能力を最大限に引き出すため、それぞれの職業ジョブ武器種を選ぶのが現代では定説みたいだが、おれは無職業ノージョブだしな。どうせなら扱いなれている武器が良いだろう。


 【木の剣】に合わせて【木の盾】も買っておいた。本来ならば他部位にも装備を付けるのだろうが、今は一旦これで良いかな。


「お、剣士系だったか。<ステータス>をしつこく聞くのはマナー違反だからこれ以上は聞かねえが、将来有望だな。がんばれよ、にいちゃん!」


 短い買い物を済ませ、早速装備を付けたまま足は自然にダンジョン受付へと向かう。

 店を出た後、もう一度<ステータス>を確認しようと手が動くが、


「……やっぱいいや」


 無職業ノージョブを自ら目にするのはなんとなく気が進まない。


 それからおれは、この世界で初めてのダンジョンへ直行した。

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