第51話 夜7 貴族の羊はなにとをもふ3
ボロボロになった丈の長い茶色いスカートとクリーム色の薄手の上着と白いシャツを着た少女――リア・グレイシアは、ショートソードを強く握って床を踏み込み、飛び出した。
白い刀身と黒い刀身の短剣を左右の手に握り、眼鏡を掛けたメイド服の女――メルは、ボロボロの薄手の上着と丈の長いスカートを履いた飛び出すリアを、両手に短剣を構えて真っ向から迎え撃った。
ガキーン、と金属が激しくぶつかる金属音が響き渡る。
袈裟斬りで斬りかかったリアの剣を、眼鏡を掛けたメイド服のメルは、左右の短剣の刀身を交差させて防いだ。
丈の長い茶色いスカートを履いたリアが、防がれたショートソードを身体ごと前に更に押し込む。
眼鏡を掛けたメイド服のエルが、身体ごと力を刀身に押し込むリアの剣に押され、踏ん張る足が床を滑っていく。
腕の力を一瞬抜いた後に左右の短剣の刀身を滑らせて、眼鏡を掛けたメイド服のメルが、僅かに重心が傾いた丈の長いスカートを履いたリアの押し込む力を下方へずらす。
眼鏡を掛けたメイド服のメルが、リアの押し込む力を利用して、ショートソードの先端をそのまま床へと激突させた。
体勢の崩れた丈の長いスカートを履いたリアの左に僅かに回りこみ、眼鏡を掛けたメイド服のメルが、しなるような右回し蹴りをリアの左膝の裏へ叩き込んだ。
左膝を曲げられ重心が傾いたリアが、がくん、とバランスを崩す。
眼鏡を掛けたメイド服のメルが、左手に持った黒い刀身の短剣で、バランスが崩れて頭の下がったリアの顔面に向かって下から斬り上げた。
丈の長いスカートを履いたリアは瞬時に上半身を反らして両足を曲げてしゃがみ、左手の掌を床に突いて短剣を躱す。
眼鏡を掛けたメイド服のメルが斬り上げた短剣の刃は、リアの前髪を掠めて空振りし、虚空を斬る。
左手を床に突いたまま、丈の長いスカートを履いたリアが、眼鏡を掛けたメイド服のメルの左足の
眼鏡を掛けたメイド服のメルが上半身を大きく反り返して飛び、空中で後方回転してリアの足払いを回避した。
床に着地した眼鏡を掛けたメイド服のメルが一歩大きく踏み込み、左手を突いてしゃがんだ体勢のリアに、右手の黒い刀身の短剣を下から掬い上げるように斬りかかった。
丈の長い茶色いスカートを履いたリアが、床に手を突いた左手だけの力で自分の身体を持ち上げ倒立して身体を浮かせ、後方に回転して飛び退き、メルが掬い上げるように斬り上げた短剣を避けた。
床に着地した丈の長いスカートを履いたリアが、右手に持ったショートソードを握り直し、その切っ先を眼鏡を掛けたメイド服のメルに向けた。
体勢の立て直しがまだ出来ていない眼鏡を掛けたメイド服のメルに向かって、リアが床を踏み込んで前に一直線に飛び出し突進する。
薄い上着を羽織った白いシャツを着た突進するリアが、ショートソードの切っ先をメルの身体に突き出した。
眼鏡を掛けたメイド服のメルは、ステップして左に小さく飛び退き、ショートソードを突き出し突進するリアの右側に回りこみ、攻撃を華麗に避けた。
カチリ、と眼鏡を掛けたメイド服のメルが奥歯を噛み締めると音がした。
眼鏡を掛けたメイド服のメルは、奥歯に仕込んだ一本の毒針を口から吹き出す。
ショートソードを突き出したリアの右腕に、メルが吹き飛ばした毒針が刺さる。
眼鏡を掛けたメイド服のメルは後方に飛び、突進を止めたリアから距離をとる。
突進して勢いに乗った身体を、丈の長いスカートを履いたリアは、両足を交互に前に出しゆっくり止めた。
足を止めて振り返り、クリーム色の薄い上着と白いシャツを着たリアが、ショートソードの切っ先を、眼鏡を掛けたメイド服のメルに向け、持ち上げる。
しかし、目を見開いたリアの手からショートソードの柄が離れ、ショートソードが床に落ちた。
「力が入らない……」
と、薄手の上着と白いシャツを着たリアは、だらんと力なく下がった右腕の肩を左手で押さえた。
ふっと笑い、眼鏡を掛けたメイド服のメルが言った。
「毒蛇から抽出した神経毒よ、暫くその右腕は使えないわ」
だらんと下がる右腕の肩を左手で押さえながら、丈の長いスカートを履いたリアは奥歯を噛み締め、眼鏡を掛けたメイド服のメルを睨む。
眼鏡を掛けたメイド服のメルは、暫く黙ったまま左手で垂れ下がった右腕の肩を押さえ睨むリアを、笑みを漏らして見つめた。
眼鏡を掛けたメイド服のメルは瞳を瞑り、ゆっくりと眼鏡に手を触れる。
そして、メルは眼鏡を外し、顔を左右に振って黒く長い編みこんだ長髪を揺らす。
目をゆっくり開き、メイド服を着たメルは右手に持った眼鏡を上空に放り投げ捨てた。
上空へ投げ捨てられたレンズの入ってない眼鏡が、教会内のどこかに落ちる悲しげな音が響いた。
へっ、と、右腕の肩を左手で押さえる丈の長いスカートを履いたリアが、軽く笑い捨てる。
「重りを外してパワーアップとかしたつもり?」
黒く長い髪を後ろで編みこんだメイド服を着たメルが、右手の指で金属の弾を弾く構えをする。
「あの眼鏡は重りではないわ……、わたしを縛る足枷よ」
「ずっと縛られたままの方が、わたしは楽でよかったのに」
「手加減するつもりはないわ。それにあの足枷は、羊の子守唄のように心地よ過ぎて眠ってしまいそうですもの……」
黒い長髪のメイド服のメルが、右手の親指に力を入れる。
右肩を押さえる丈の長いスカートを履いたリアが、ぐっ、と身構えて警戒する。
黒い長髪のメイド服を着たメルが親指を弾き、石をも貫通する金属の弾が、右肩を押さえて身構えるリアの顔面に向けて撃ち込まれた。
右肩を押さえるリアは大きく身体を左に振り、金属の弾を避ける。
金属の弾は、横に棚引いたリアの髪をバラバラと砕き撃ち抜いた。
だらんと下がる右肩を左手で押さえたまま、丈の長いスカートを履いたリアが、横に走り出す。
黒い長髪のメイド服を着たメルが、腰に隠していたピンの刺さった棒を取り出し、駆け出してリアと距離を詰める。
「これは危ないから、よく見ておいたほうが良いわよ」
と、黒い長髪のメイド服を着たメルが、手に持った棒のピンを親指に引っ掛けて引き抜いた。
横に走るだらんと下がった右腕の肩を押さえるリアの前に、ピンを引き抜いた棒が投げられた。
投げられた棒を、丈の長いスカートを履いたリアは、走りながら警戒して見つめる。
そして、リアの前に放り投げられた棒が、太陽の光のような眩しい閃光を放ち、破裂した。
「しまった目が!」
と、だらんと下がった右腕の肩を左手で抑えるリアは、閃光から顔を背け目を瞑り、足を止める。
目を瞑り、足を止めた丈の長いスカートを履いたリアに、黒い長髪のメイド服を着たメルが走り寄る。
「これで終わりね馬鹿力の貧乏少女!」
右手に握った白い刀身の短剣を、黒い長髪のメイド服を着たメルが、目を瞑り顔を伏せるリアの顔に目掛けて突き出す。
突き出した短剣の切っ先がリアの顔に触れる寸前に、ドン、という音ともに、その場に立っていたリアが横に吹き飛んだ。
吹き飛び、床に倒れたリアの変わりに、その場には手を広げた青い服を着た赤黒い髪の青年――ジャックス・レイモンドが立っていた。
短剣を突き出したメルの前に、手を広げて立ちふさがるジャックスの姿が目に映る。
黒い長髪のメイド服を着たメルが突き出した短剣は、手を広げ立ちふさがったジャックスの右胸に突き刺さった。
手を広げメルの前に立ちふさがり、右胸に白い刀身の短剣が突き刺さったジャックスのその右手には、メルが放り投げた眼鏡が、強く握られていた。
メルは右腕を突き出したまま目を見開き、右手に握られた眼鏡と、短剣の突き刺さった右胸、そして血を吐くジャックスの顔を呆然と眺めた。
「なぜ……」
黒い長髪のメルが、呆然と声を漏らす。
口から血を吐き、短剣が右胸に突き刺さり、眼鏡を右手に握り、手を広げたまま立つジャックスが、目を見開き呆然として立ち尽くす黒い長髪のメイド服を着たメルに、笑みを漏らし、言った。
「まだ、間に合うからさ……」
そう言い、口から血を吐きつつ青い貴族服を着たジャックスが、仰向けのまま音を立て床に倒れた。
黒い長髪のメイド服を着たメルの手から、もう片方の黒い刀身の短剣が離れ、床に落ちた。
返り血を浴びたメルの顔は怯えたように青ざめ、血を流し倒れているジャックスを、揺れる瞳で見つめる。
床に倒れたジャックスの前にただ呆然と立つメルの下から、影が伸びる。
立ち尽くす長髪のメルの左側に、左手の拳を握り締めてメルの顎に目掛けて振り上げている、怖い目つきをしたリアが立っていた。
パーン、という破裂音にも似た物凄い音を立てて顎を真下から物凄い力で撃ち抜かれ、黒い長髪のメイド服を着たメルの身体が宙に打ち上げられた。
メルの身体はその場でクルクルと縦方向に回転し、床に落下して衝突し、ゴム
床に突っ伏して完全に動かなくなった、黒い長髪でメイド服を着たメルを、息を切らし肩を上下させながら、右腕をだらんと下げたままのリアが、左手の拳を強く握り、立って見下ろしていた。
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