第39話 昼6 期待のルーキー

 ギルド関連の建物が建ち並ぶ<ギルド通り>の冒険者ギルドの建物の前で、冒険者一年目のルーキー三人が、黒い魔道士と戦闘を繰り広げていた。

 三人はいずれも少女で、攻撃が全く当たらない黒い魔道士に苦戦していた。

 レザーのショルダーパッドにレザーの篭手、胸にはアイアンライトプレートを装着し、膝にはレザーのニーパッドと脛にはレザーのレガースを着けているポニーテールの少女――バレッタ・フィラーが、荒い呼吸で激しく肩を上下し、ショートソードを黒い魔術師に構えて立っている。


「ちきしょう、どうやったらこいつに攻撃があたるんだ⁉」


 ポニーテールのバレッタはそう言葉を吐き捨て、荒い呼吸を整える。

 その後ろで短剣を逆手に構えて立っている、軽装でショートヘアーのボーイッシュな少女――エイブリン・レブリンが、険しい顔で口を開く。


「だから、むやみやたらに突っ込むなって言ってるじゃんか」


「でも早く何とかしないと……」


 ショートソードを構えるポニーテールのバレッタが、ちらりと横目で冒険者ギルドの建物入り口の扉を見る。

 冒険者ギルドの建物の入り口の扉が勢いよく開き、中からベテランや中堅の冒険者たちがグループになって出てくる。

 建物から出てきた冒険者の一人が、建物の前で黒い魔道士に苦戦するバレッタたちを陽気に野次る。


「おっす、がんばってんな


 続けて他の冒険者も続々とバレッタたちを発見すると、お使いを任された子供のようにバレッタたちを陽気に煽り、彼女たちの前から立ち去っていく。


「苦戦してんなー。怪我するんじゃねーぞー


「勝てないと思ったらちゃんと逃げるんだぞ


「かっこいいところ見せようとか、そんな頑張んなくてもいいんだぞ


 等と、ニコニコと大人の余裕を見せながらそれぞれが棘のある一言をかけてバレッタたちを茶化しながら、他の襲撃地点へ散っていく。

 ベテラン冒険者たちの前で醜態を晒し顔を赤らめ、恥ずかしさを堪えながらポニーテールのバレッタが冒険者たちを怒鳴る。


うるせぇ気が散るわ! てめぇらは早く行って片付けてこいよ!」


 ショートソードを構えるポニーテールのバレッタと、短剣を構える軽装でボーイッシュなエイブリンの更に後ろで、黒いつばの広い三角棒を被り黒いローブを羽織った魔法の杖を持つ背の低い魔法使いの少女――ポリリー・エスタノッタが、静かに口を開く。


「みんなの前で恥ずかしいの……、早く終わらせたいの……」


 ボーイッシュなエイブリンが冒険者ギルドから出てくる冒険者たちの、年寄りが孫を心配すような心に刺さる視線を背中に感じつつ、眉間にしわを寄せて頷く。


「確かに……」


 ポニーテールのバレッタと、ボーイッシュなエイブリンと、魔法の杖を持つ背の低いポリリーが、それぞれ武器を構えて目の前に対峙する黒い魔道士に向き直る。

 黒い魔道士の風貌は、羊皮紙を広げて黒いローブを着てフードを被り、フードの中が黒い気で充満していて顔の見えない姿をしていた。

 黒い魔道士は魔法を発動すると羊皮紙から火の玉が飛び出し付近に被害を与えるので、バレッタたちは被害を最小限に抑えるため、防ぐことの出来る魔法は防ぎつつ、黒い魔道士に立ち回っていた。


 ポニーテールのバレッタは予め矢の装填された腰のボウガンを左手で取り出し、黒い間同士に向けて矢を発射する。

 矢が一直線に黒い魔道士に向かって飛び出し、魔道士の黒いローブに矢が触れると、魔道士は霧のように霧散して陽炎のように姿を消した。

 黒い魔道士をすり抜けていったボウガンの矢が、むなしく地面に突き刺さる。


 ポニーテールのバレッタが険しい顔をして、ショートソードを持ちつつ再びボウガンに矢を器用に装填しながら、ちっ、と舌打ちをする。


「矢ももう残り少ない、ほんと埒があかねぇ……」


 再び、目の前に現れた黒い魔道士が、静かに言葉を発する。


「ファイアボール……」


 黒い魔道士が広げた羊皮紙から火の玉が飛び出す。

 魔法杖の先端を前に突き出し、魔法使いのポリリーが魔法を発動する。


「アイスウォール」

 ポリリーの突き出した魔法の杖の先端から、青い魔方陣が飛び出てクルクルと回転し、黒い魔道士とバレットたちの丁度中間の場所に、四人掛けの丸いテーブル一つ分の氷の壁が出現する。

 ボオォォン、と火の玉と氷の壁がぶつかり、爆発音と衝撃波と突風を巻き起こし、黒い魔道士とバレッタたちの間合いの中で爆発する。

 巻き起こる熱をもった突風から、バレッタたちは腕で顔を防いで防ぐ。

 黒い魔道士の黒いローブがバタバタと爆風に煽られて激しくはためく。


 風が止み、ゆっくりとバレッタたちは態勢を整える。

 丁度、冒険者ギルドから出てきた冒険者がバレッタたちにアドバイスをする。


「反属性で防御すると魔力が反発してエネルギーが暴走することがあるから注意しろよー


「うぅ……、分かったの……」


 恥ずかしがりながら、ポリリーは魔法の杖を抱えて反省する。

 ポニーテールのバレッタが、目の前に立つ黒い魔道士を見て何かに気がつき、はっと顔を上げた。


「分かった気がする……」


 バレッタはポリリーに振り返って指示をする。


「ポリリー、風を起こす魔法は撃てるな? ただあいつに、風をぶつけるだけでいい」


「うん、できるの」


 ポリリーは頷いた。

 バレッタは次に、ボーイッシュなエイブリンに指示する。


「エイブリンは、わたしが指示したら捕縛をお願い」


「わかった」


 エイブリンは頷き、腰にぶら下げていた巻いて束ねたロープを手にした。

 ポニーテールのバレッタがボウガンを腰につけ直し、ショートソードを構えた。


「多分、あいつの弱点はあの顔……、黒い霧だ。さっきの爆発では実体化したままローブが風に煽られていた。複数対象から顔を守るとき、あいつは実体化したままになるはずだ」


 バレッタがショートソードを構え、エイブリンが束になったロープを引き伸ばし、ポリリーが魔法の杖を構えて先端を黒い魔道士に向けた。


「ポリリーやって!」


「ハイウィンド」


 ポリリーの魔法の杖の先端から緑色の魔方陣が発現し、クルクルと回転した後に、杖の先から突風が吹き出した。

 吹き出した突風が黒い魔道士に吹き、黒いローブが激しくはためく。


「やっぱりそうだ。あいつは顔の黒い霧を守って、実体化したままになる」


 バレッタがポリリーの魔法によって発生した突風が吹き荒れる中、ショートソードを構えて駆け出し、顔を片腕で覆い防御する黒い魔道士と間合いを詰めた後、飛び上がって黒い魔道士の頭上から脳天目掛けて斬りかかる。


 黒い魔道士が顔を片腕で防御したまま頭上へ振り向き、バレッタの攻撃を避ける為、横へ飛びのく。

 地面に着地したバレッタがロープを構えるエイブリンに振り返る。


「エイブリン今だ!」


「インティーワタナ!」


 エイブリンが遠心力を使いロープを回転させた後、勢いをつけてロープの先端を黒い魔道士目掛けて投げつけた。

 エイブリンが黒い魔道士へ投げつけたロープが分裂し、ロープの束が蛇のようにうねうねと意思を持ち宙をうねり、黒い魔道士の身体に巻きついていく。

 エイブリンは束になったロープを握り締め、呼吸を整え、掴んだ右手に意識を集中する。


 黒い魔道士はエイブリンの放ったロープで身体をぐるぐる巻きにされて拘束され、身動きが取れない。

 エイブリンがロープを握り締めてロープのテンションを張り、渾身の力でロープの束を背負い投げながら引っ張り上げた。


「必殺脳天落とし!」


 身体をぐるぐる巻きにされた黒い魔道士の身体が宙に浮き、上空で弧を描き山なりに、黒い魔道士は上空から地面へ向かって脳天から叩きつけられた。

 ドォォォン、と、衝撃と共に土煙を上げて、黒い魔道士は逆さまのまま頭から直立する。

 頭から直立する黒い魔道士はゆっくりと姿勢が崩れ、ロープで拘束された身体がピンを倒すように地面に倒れた。


 バレッタとエイブリンとポリリーが激しく肩を上下させ、地面に倒れて動かなくなった黒い魔道士を見つめる。

 暫くしても、黒い魔道士は地面に倒れたまま動かない。


「やったか……」


 バレッタが口を開き、エイブリン、ポリリーの二人も笑みを漏らす。

 冒険者ギルドの建物から、再び冒険者が出てくる。


「お、やったか。じゃあ中へ運びな。あとは中のやつらがなんとかするだろう」


 そういって、建物から出てきた冒険者は急いで立ち去り、現場へ急行する。

 バレッタたちはロープでぐるぐる巻きになり動かなくなった黒い魔道士を、バレッタが頭を持ち、エイブリンが足を持って、慎重に冒険者ギルドの建物の中へと運んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る