第33話 朝2 貧乏少女と商人貴族ジャックス・レイモンド1
学校校舎前に建設された学生祭用の大舞台に立つ赤いワンピースを着た金髪の女性――マリエッタ・ロードネスが、台本どおりの短い開幕宣言を告げた。
雲のない透き通るような青空に、学生祭の開幕を合図する花火が打ち上がる。
学園校舎から打ち上がった花火を皮切りに、<南東商学大通り>の道を沿って順に花火が打ち上がっていき、最後にパレードの出発点である<ロードネス噴水公園>から何発も花火が打ち上げられた。
青い貴族服を着た恰幅の良い赤い髪の青年――ジャックス・レイモンドと、小さいいポーチを肩から掛けて丈の長い茶色のスカートを履きクリーム色の薄手の上着を羽織った少女――リア・グレイシアは、昼食を予定している<ロードネス噴水公園>に向けて、学園校舎前から校庭を出て大通りを歩き始めた。
大通りの街並みは垂れ幕や看板などで飾られており、所々に人の入った動物の着ぐるみが子供たちに手を振って風船を配ったりしていた。
石畳の道の人通りも、休日の親子や遠方からの旅行客で賑わっている。
普段、客を乗せた馬車や商品や荷物を乗せた荷馬車が行きかう広い道路は、学生祭の安全の為に車の通行が制限されていた。
客を乗せる馬車や荷物を乗せる荷馬車の変わりに、店舗を休日にして露店を出店する店主たちと、食べ物や中古品を出展する学生が出し物で行う露店、木枠を組み立てて布を張った簡易店舗等が、石畳の道沿いにずらりと建ち並んでいる。
道に並ぶ露店には軽食や飲み物をはじめ、中古品の衣類や骨董品、本や薬の調合素材、職人用の道具や冒険者用の装備、手作りの民芸品や芸術作品など、様々な商品が並んでいた。
出店は事前登録制になっており誰でも参加可能で。登録を済ませた後に出展場所が決められ、各々決められたスペースで露店を開く。
多くはフリーマーケットのように個人が中古品を並べる店が多くあるが、他にも商品を処分する為にセールとして破格で売り出しているところも多々ある。
大通りを往来する人々は掘り出し物を求めて露店を見て周ったり、おいしそうな食べ物を購入して食べ歩く姿もいたるところで見受けられた。
学生祭開始前まではデートのことで頭が一杯で余裕のなかったジャックスも、目移りする掘り出し物の数々の誘惑に勝てず、時折リアのことを忘れてしまいながらも楽しみながら露天を見て回る。
リアもジャックスに付き添いながら、時折ジャックスから離れて中古の服を手に取ったりして楽しんだ。
都市ロードネスの南東エリアに位置する<南東商学大通り>の丁度中間地点、ギルド関係の糧物が建ち並ぶ<ギルド通り>を通り過ぎ、少し先に進んだ頃、ジャックスとリアの二人はゴール地点の大学校舎前まで向かうパレードの行進に出合った。
道路の中央を占領する車のついた大きな城を模した山車が、明るく陽気な音楽を大音量で奏でながら行進しやってきた。
山車の上にはオルガンとそれを演奏する演奏者、フルートを吹くピエロ、音を大きく出すスピーカー、動物や何かのマスコットの着ぐるみを着た演者が、周りを往来する人たちに手を振ったり、手を振る子供たちに投げキッスなどのアクションを見せている。
山車の前後には太鼓を担いで叩く者たち、トロンボーンやトランペットを吹く者たち、バイオリンを弾く者たち、旗を振って先導する者たち、鉄琴や琴を担いで音を奏でる者たち、様々は楽器を演奏しながら大音量で山車を引き連れて規則正しく大通りを行進していく。
ジャックスとリアは思わず立ち止まり、道路の脇に逸れて見物客たちに混じってパレードを眺めた。
目を輝かせたジャックスが無邪気に感嘆する。
「これはすごい、まるで異世界にいるようだ」
「夜間に電飾をつけたもっとすごいものが、世界のどこかにはあるらしいですよ」
「ほう、見てみたいものだな」
「夢の国という別次元の場所だそうです。お兄さまがそう教えてくれました」
ジャックスが少し気になっていたことを、言いにくそうにリアに訊いた。
「その、気になっていたのだが……、君の兄というのはユリウスという名ではないかね?」
「そうです、兄はユリウスです。ジャックスさんはどうして兄の名前を知っているのですか?」
少し間を置き、ジャックスは答えた。
「グレイシアという名を聞いたときに薄々は感じてはいたのだが、マリエッタは君とユリウスが兄妹であることを何も教えてはくれなくてね」
「そうだったんですか」
「実はユリウス、マリエッタ、私の三人は古くからの友達でね、サンハイト領の学園で一緒に過ごしていたんだ」
「お兄さまのお友達……、初めて聞きました」
リアはマリエッタしか知り合いがいないと思っていた兄の新事実に驚愕し、目を見開き口に掌を当ててそう驚き答えた。
「どうやら、ユリウスはあまり自分のことは妹に語らないようだね」
「はい、兄は物知りで知識などはよく教えてはくれるのですが、自分のことになると急に黙ったりはぐらかしたりするのです。兄の口からは、友達らしい他人の名前なんて、マリエッタお姉さまの名前しか聞いたことがありませんでした」
「そうなのか。あいつはマリエッタ以外とはあまり腹を割って話さないのだな」
「言われてみれば、兄が自分の事情を踏み込んで話すことなんて、マリエッタお姉さま以外では見たことがありません。わたしに対しても、マリエッタお姉さまと同等のように話はしないかもしれません」
ふっと、軽く笑い、ジャックスが口を開く。
「どうやら私たちは似ているようだ。ユリウスは物事の知識などは披露して話したりしてはくれたが、マリエッタと話すときと同じように仲良く話してくれはしなかった。血の繋がりがある分、君のほうが私よりも幾分かはマシなようだが。まぁ、それは当たり前のことなのだが……」
と、一瞬、ジャックスは目を伏せて口を閉ざした。
「どうかなされたのですかジャックスさん?」
「いや、なんでもない」
気を取り直し、ジャックスが続けた。
「パレードもこの列で最後のようだな。さて、我々は<ロードネス噴水公園>まで行くとしよう。この混み具合だとい座る場所がなくなってしまうかもしれない」
「そうですね。では行きましょうか」
ジャックスとリアはそう言って、パレードが通過していくところを見送りつつ、振り返って大通りの先の<ロードネス噴水公園>まで歩き出したのだった。
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