第23話 クレイジーキティ4
わたしたちは獲物を見つけ、狩を続けた。
酔っ払いや弱そうな男を狙うことが多く、路地へ誘い出したり、誘われて部屋へ招かれて殺し、金品を物色して手に入れていった。
わたしたちは招かれて殺した相手の家を根城に、ソーモンの街を転々とした。
狩に慣れていくうちに、死体の処理も行うようになった。
血抜きをし、内臓を取り出し、皮を剥ぎ、頭を落とし、四肢をばらして肉を捌いた。
ばらした肉は勿体無いので、売ったり食べたりして処分をする。
数ヶ月が経ち、いつしかソーモンの街で噂が立つようになった。
小さな子供の姉妹が男たちを殺害し金品を奪い、その死体の肉を食べて夜闇を徘徊している。
クレイジーキティ――狂った子猫と、わたしたちはそう呼ばれるようになった。
ソーモンの街では誰が殺されようが誰がいなくなろうが、何が盗まれようが、他人に関心がある者なんていなかった。
強ければ生き残る、弱ければ死ぬ、力の無い者は徹底的に搾取される、ただ単純な街の掟だった。
法なんてない、強い者が法で、力で権力を持った者はこの街で自由を謳歌する。
しかし、このソーモンの街で絶対に逆らえない、この街を統治している組織があった。
ソーモンの秘密ギルド<はないちもんめ>という組織だった。
奴隷商売を主に行うクソみたいな商人貴族が頭首で、幹部にはこの街の悪事を取り仕切る管轄が割り当てられている。
薬物、酒、娼館、暗殺、その他仕事の割り当てなど、そいつらの作ったルールでこの街が出来上がっていることを、わたしたちは徐々に学んでいった。
ある日、わたしたちはその幹部の一人と出会うことになる。
殺した男女の住む部屋で、いつものように死体を解体しているときだった。
死体を解体するときは裸になると服が汚れず後が楽になることを学んだわたしたちは、裸のまま男女の死体を、慣れた手つきで解体していく。
死体を吊るして解体中、血肉の生臭い匂いと汗と糞尿の混じったきつい匂いが充満した部屋に、誰かが入ってきた。
唐突にドアが開かれ、暗がりの中で死体を弄ぶ、ナイフを手にした裸のわたしたちを見下ろす金髪の美女そこにいた。
黒いワンピースドレスを着た金髪の美女が、わたしたちに向かって口を開いた。
「チャーム」
と、怪しく紫色の瞳をした金髪の美女が言葉を発すると、わたしの身体は急に動かなくなった。
エルも同様に、身体の自由が利かなくなっていた。
身体に力が入らなくなり、ぼんやりとした意識の中、私の手からナイフがずり落ちた。
「こっちへ向きなさい」
わたしは命令されるまま、ゆっくりと金髪の美女に振り返る。
金髪の美女がドアを閉め部屋に入り、ぼんやりとふらついているわたしたちに近づく。
「あなたたちがクレイジーキティね。ほんとに子猫ちゃんだわ……」
金髪の美女が裸のわたしの身体に触れ、感触を確かめるように何度もしなやかな手で弄る。
「若いだけあって素材は申し分ないようね」
何も出来ない、身体が動かない、これが強者……、解体中の死体が転がる異常な光景にも全く動じない目の前の女、わたしは目の前の強大な力を持った謎の美女を恐れて震えた。
殺される、もうお終いだ……、わたしは金髪の美女に身体を触られながら死を悟った。
「最近、わたしのシマを好き勝手にやってたのあなたたちでしょ?」
身体が動かず声も出ないので答えようが無かった。
「まぁ、知らないでしょうけど、ここら一帯はわたしの縄張りなの。娼館の従業員がここに多く住んでてね」
金髪の美女は吊るされた男女の死体に顔を向けた。
「あなたたちに吊るされたそれも娼館で働く従業員。困るのよね、人手少ないのに……」
怪しく妖艶な笑みを漏らし、美女がわたしたちを見て獲物を捕らえた悪魔のように舌なめずりをする。
「あなたたち、わたしの部下になりなさい」
美女が続けて言った。
「わたしはソーモンのギルド<はないちもんめ>の幹部の一人、クレオネピラよ。クレオと呼ばれているわ。この街で娼館を取り仕切ってるの」
わたしたちの身体の自由はまだ利かない。
黒いワンピースドレスを着た金髪の美女――クレオネピラは、そんなわたしたちを焦らして弄ぶかのように、一方的に話を続ける。
「住居も用意するし給料も歩合だけど出すわ。丁度、活きの良い若いのが欲しかったのよね。手元に置けて殺しでも何でも出来る使い勝手の良い気の狂った子猫がね」
わたしたちに拒否権は無かった。
逆らえず、ただただ、洗脳するかのように金髪の美女の甘い声で話を聞かされた。
やがて、わたしたちは身体の自由が利くようになった。
「まずは服を着なさい。後でもっとおめかししてあげる」
わたしたちは恐怖で震えながら服を着て、女の言う通り指示に従い、不安を感じつつ、言われるまま部屋を後にし、その黒いワンピースを着た金髪の女幹部クレオネピラについて行った。
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