ジャックス・レイモンドと執事たち
第14話 朝 兄の居ない朝
朝起きて寝ぼけつつ、欠伸を欠きながらリビングへの階段を下りる少女――リア・グレイシアは、いつものリビングの窓際に座る兄に向けて口を開く。
「ごきげんようですわお兄さま……」
リアは再び欠伸を欠き、眠い目を擦る。
「…………」
いつものニートの兄の返事が返ってこない。
「お兄さま?」
よく見ると、がたついた木のテーブルに、いつもの兄の姿は無かった。
リアは周囲を見渡しながら兄を探し、テーブルに近づく。
兄の姿は何処にもない。
いつも座っている兄の代わりに、テーブルの上には手紙が三通置いてあった。
我が妹へ……、とリア宛に書かれた手紙を、リアは手にとって読み上げた。
「我が妹へ、しばらく留守にする……」
リアは手に取った手紙の、兄の文章を続けて読む。
「学生祭には間に合わないので、屋台の食べ物は残しておかなくていい……。追伸、紅茶とティーセットは好きに使ってくれて構わない……。あと、別の紙にプランターとコンポストの使い方を記しておいたのでよく読むようにしたまえ……。プランターとコンポストは玄関の横に設置しておいた……。以上、兄より……」
これはまさか、お金のことを言いすぎたのでまた男娼で稼ぐ気では……、と裸の兄が好き勝手に男たちに抱かれる姿を想像しながら、リアは一応、首を振る。
たまに、ニートの兄は今回のように急に家を出て行き留守にすることがあった。
そして、少しやつれて帰ってきたときに、十分なお金をくれるのである。
普段ニートしかできない兄が心配になり、そのことを友達の冒険者であるバレッタたちに相談したことがあったのだが、その際に皆で出した結論が、兄は美貌を生かして稼ぎの良い男娼をやっている、という妙に納得してしまうものになったのであった。
「お兄さま、なんとも御いたわしや、ですわ……」
リアは汚いおっさんたちに好き勝手に抱かれる裸の兄を思い、悲壮な顔をしながら残りの手紙に目を通す。
そこにはプランターにジャガイモを植える植え方と水やりの方法、コンポストとは
気になって玄関を開けると、玄関脇に土の入った木箱が二つと、バケツに石で重石をして蓋がしてあるコンポストが設置してあった。
リアは早速、手紙の指示に従い、二つの木箱のプランターに芽の生えたジャガイモを間隔を均等に空けるように五つずつ植え、コンポストに昨日取っておくように言われたジャガイモの皮などのゴミクズを入れ、スコップで攪拌し、重石を乗せて蓋をした。
「これでよろしいのかしら……」
内心ワクワクしながら、リアは玄関先の家庭菜園を離れ家に入る。
そして、兄の居ない静かな朝の訪れに戸惑いつつも、仕事に行く準備を始めたのであった。
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