第12話 夜3 襲撃者の正体

 人の気配が全くしない夜の都市ロードネスの地下水路に、黒いローブを着てフードを被った三人がいた。

 左手に持ったランタンに火を灯し、明かりに照らされて暗闇にフードの中の顔が浮かび上がり、三人の人影が壁にゆらゆらと映し出される。


 額の右側から頬にかけて顔に傷があり、片眼鏡をかけた隻眼で白髪の、普段はジャックスに付き従う老執事――ガルマンダが、苦々しい顔で口を開く。


「怪盗オクターとやら、我々の計画を邪魔しおって……。あのバカ道楽息子とマリエッタを始末できる折角の機会であったのに……」


 左手にランタンを持った、右の目元に泣きぼくろがある眼鏡をかけたジャックスのメイド、双子の姉妹の姉――メルが、白髪の老執事のガルマンダに伺う。


「ガルマンダ様、あの擬装用に雇った、ソーモンの三人組はいかが致しましょう?」


「放っておけ。どうせ顔も魔法で見られてはおらぬ」


「はい、ではそのように致します」


 口元にほくろがある目つきの鋭いセミロングの黒い髪、そしてジャックスのメイドでもある双子の姉妹の妹――エルが、少し赤く打撲の跡の残った右の頬を右手で押さえ、舌打ちして愚痴を吐き捨てる。


「ちっ、あの護衛の田舎娘、わたしの顔を蹴りやがって……、今度やるときは絶対殺してやるよ」


 それを聞いて、眼鏡をかけた姉のメルが、右手で少し赤い頬を擦る妹のエルに指摘する。


「あの庶民の娘とあなたは相性が悪かったみたいね。攻撃の殆どが読まれてたわ」


 目つきの鋭いセミロングの妹のエルが、また舌打ちしてイラつき、眼鏡をかけた姉のメルから目を背けた。


 片眼鏡をかけた老執事のガルマンダが、二人の会話が終わったのを見計らい、口を開く。


「何はともあれ、このロードネスの街に滞在している期間は、我々の計画を実行するまたとない機会。レイモンド家の跡取りの一人であるあのバカと、ロードネスの一人娘マリエッタを始末できれば、ロードネス領の勢力を大幅に削れることになる。ソーモンもその隙に勢力の拡大を図り、ロードネス領支配への道を進みやすくなるだろう」


 目つきの鋭いセミロングのエルが、片眼鏡をかけた白髪のガルマンダに言う。


「そしてわたしたち三人は、ソーモンのギルドへ復帰するのです。そうなれば長年耐え忍び、あのバカ男に従ってきたガルマンダ様の苦労も、わたしたち姉妹も報われる」


 白髪の老執事のガルマンダが口を開く。


「あのバカ息子さえいなくなってしまえば、長男のローエン・レイモンドによるレイモンド家の掌握も、もはや時間の問題だ。ソーモンギルドはローエンと手を組み、レイモンド家が取りまとめているロードネス領の中央港<ネス港>、東の港<オーダ港>、西の港<東ピラーベース港>の三つの港街を、一気に手に入れることとなる」


 眼鏡をかけた姉のメルが、それに付け加える。


「さらにソーモンを常々警戒して裏で色々手を回しているマリエッタも討ち取ることが出来れば、都市ロードネスは優秀な副市長を失い、攻め入りやすくなることでしょう」


 片眼鏡をかけた隻眼の老執事、白髪のガルマンダが頷き、口を開く。


「さて、では次の手を打とうではないか……」


 ガルマンダが言葉を区切り、胸の内に溜まった執事としての過去の思いを搾り出すかのような静かで力強い声で、続けて言った。


「ソーモンのギルドに、我々は必ず復帰する……!」


 双子の姉妹のメルとエルも、ガルマンダに賛同するように頷いた。


 ランタンの灯火でゆらゆら揺らめく壁に映しだされた三人の黒い影は、まるで彼らの胸中を映し出しているかのように、常に揺らめき、うつろいでいた。

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