第19話 思い出した恐怖心

私が桐生さんに着いていくと狛龍組の事務所へと連れて行かれた。


「どうしてここに連れてきたんですか?」


「どうしても萌果さんと話がしたくてね」


「それならここじゃなくても…」


「わかってないねー。ここだったら君は逃げられないだろう?」


そう言った桐生さんの顔は今まで見たこともないような笑みで私を見ていた。


その瞬間に"これはヤバいかも"っと思ったが、時すでに遅しで、出入口には人が立っていて逃げられないようになっていた。


「なんでこんなことするんですか?」


「実はね、椿が君を紹介した時に一目惚れしてね。どうしても私のそばに置いておきたくなったんだよ。」


「だから誘拐まがいのことをしたと仰るんですか?」


「誘拐だなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。萌果さん自らここに来てくれたんじゃないですか」


「それは、あなたが!!」


「私がなんです?脅したとでも言いたいんですか?」


「違うんですか?」


「私は脅したつもりはありませんよ?」


「…」


「とにかく、私はあなたと居たいだけですよ」


「…それに、ドアの前にいる人は誰なんですか?」


「あぁ、萌果さんとは初対面でしたね。彼は狛龍組の若頭の…」


「橋本匠馬(はしもと たくま)です。以後お見知り置きを。」


「そうですか。で、いつになったら帰らせてくれるんですか?」


「正直、帰らせる気はありませんよ。」


「どういうことですか?」


「私はあなたを手に入れたい。それには椿は邪魔なんですよ。」


「邪魔って…」


「組としても邪魔ですし、なによりあなたのような素敵な女性を嫁に貰おうだなんて…目障りなんです。」


そう言った桐生さんは恐ろしく冷たい目をしていた。


その目に私はゾクりとして恐怖から手の震えが止まらなくなってしまった。


「颯杜さんをどうするつもりですか?」


「そうですねー。あなたの返答次第では生かすことも殺すことも出来ますよ?」


「殺すって…なんでそんな平然と言えるんですか?」


「忘れてもらっては困ります。私は極道の人間なんですよ?」


「…」


そう言われて"そうだ…そうだった"と気づくとさらに恐怖心が私を襲ったが、悟られないように平気なフリをした。


「椿なんて男との結婚は辞めて私の物になってくださいよ。」


「それは…」


私がどうしたらいいのか、なんて言ったら穏便に済むのか、悩んで返答に困っていると、ドアの方が騒がしくなった


「橋本さん!!大変です!」


「一体どうしたんだ?騒がしぞ」


「牡丹組が乗り込んできました!!」


「何!?」


「椿 颯杜が桐生さんと話がしたいと、あと…」


「なんだ?」


「"俺の萌果を返せ"とも言っていました」


颯杜さんが来てくれた。そう思うだけで心が熱くなって安心と嬉しさに笑みが溢れた。


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