にいさま、もーっと怖い話をしましょう⑥
「なんだ……? この……、なんだ?」
僕は日記を手に困惑せざるを得なかった。
問題なのは最後の日記だ。妹らしき書き手がこの屋敷の兄らしき人物(そのときの怪談屋敷の当主だろうか?)を慕っているような文章が残されている。
実際のところどういう立場の誰が何をしていたのかは曖昧だ。
その後、書き手と屋敷がどうなったのかも分からない。
この「にいさま」という書き方からして……もしかして、あの妹と何か関係があるのだろうか? しかし、紙の劣化の感じから見ても、この日記が書かれたのはもう何十年も前だ。年代も年齢も合わない。
だが、まったく無関係とも考えにくい。
もちろん僕が読み落としている箇所もあるだろうし、この書斎に積まれた書物の山のどこかにこの手記の続きが埋もれている可能性も大いにある。いずれにしろ、この雑然とした部屋の状態では何とも言えないが……。
「確か怪談屋敷が衰えるにつれて、屋敷に住む人もいなくなってしまったんじゃなかったっけ……」
僕は想像する。
衰える怪談屋敷。
土地や財産を手放さざるをえなくなり、地主としての地位は没落。
地元の人々を呼んでの怪談会も、次第に開催されなくなっていく。
使用人は次々辞め、住んでいた一族も散り散りとなる。
屋敷の住人がいなくなったことで、無責任なあやしい噂が野放図に蔓延していく。
――怪談屋敷は呪われている。
――怪談屋敷で人が殺された。
――怪談屋敷に行くと祟りがある。
――そうだ、怪談屋敷では怪異が起こるんだ。
――なぜ怪異が起こる。
――それはあそこが怪談屋敷だからだ。
――怪談を集める呪いの怪談屋敷だからだ。
――集められた怪談が本当に怪異な力を持つようになったのだ……、と。
時が経つにつれて噂はますます広まり、虚実が入り乱れていく。
――怪談屋敷は魔除けのために怪談を語るまじないを行っていた。
――怪談屋敷は神様に代わってこの土地を守っていた。
――しかし屋敷が無人になってその習慣もなくなってしまった。
――じゃあどうなる?
――神様も守るものもいないのだから、他のものが現れるのでは?
――他のものってなんだ?
――そりゃ神様に代わる何かだよ。
――そうそう。神様がいない土地には名もなき神様モドキが現れるんだ。
そんないつどこで誰が言ったのかも分からないような、真偽不明出所不明の噂がもっともらしく出回っていったのではないか。
ごくまれに屋敷で本当に怪異に行き遭ったと言う人間もいれば、屋敷まで肝試しに来て失踪する者もいたり、運悪く命を落とす者もいる……。
やがて、怪談屋敷そのものが怪異の本拠地であるかのように語られていき――、
そして―――、現在に至る。
……まあ、後半は僕の想像というか妄想に近い代物だけど。
いかんいかん。もっと真面目に考えなければ。
ただでさえ時間がないというのに。
「怪談屋敷の歴史はだいたい分かったけど……でもこれだけだと、どうしていまこの屋敷がこんなことになってるのかは分からないな。他に何かないのか。いまの屋敷の怪異に対抗できるような手がかりは……」
僕は必死になって書斎にある書物を片っ端からめくっていった。
しかし、
「――――ズルはいけませんよ、にいさま」
すぐ近くで声がした。
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