にいさま、もーっと怖い話をしましょう④
「ここまでは、僕が覚えている話とも矛盾しないな……」
そこで僕はふと顔を上げて前後左右を見回す。
じっと息をひそめる。
……どうやらまだ妹には見つかっていないらしい。
うっかり集中してあれこれ読みふけってしまった。
だが、僕が気づいていないあいだに妹がこの部屋に入ってきた様子はない。
やはりあの妹にとってこの書斎は近寄りがたいような、隠しておきたい部屋だったのだろうか……? それとも単にあの厄介な訪問者二人に足を引っ張られて僕を探すどころではなくなっているだけだろうか?
なんにせよ妹がいないいまがチャンスだ。
僕は軽く息を吐いて、静かに思考を巡らす。
怪談屋敷の来歴を自分なりに少し合理的に考えてみる。
これは僕の想像だが――、初代当主が怪談を集め始めたのは、最初はただの成り行きだったのではないだろうか。当主が主張した「おそろしきものを除くまじない」というのも、体よく人々に物語を語るための方便だったのではないか。
つまり、かつて殿様に仕えていた頃の栄光を諦めきれなかった屋敷の当主が、せめてものよすがに求めたのが、たまたま怪談だっただけなのではないか……と、そういう仮説だ。
当主の本当の目的は、人々に自らの話芸を披露すること。披露する相手が殿様ではなくてこの土地に住む百姓や商人だったために、武士の武勇伝ではなく、より一般受けする怪談が選ばれたに過ぎなかったのではないか……。
書斎に残されていた記録を読んで、僕はそんな感想を持った。
僕の仮説はともかくとしても、歴代の当主たちは揃いも揃って相当マメだったらしい。初代当主の遺志を受け継ぎ、律儀に怪談を語り続けたのだ。屋敷では百物語の会が開催され続け、怪談に関するコレクションはいっそう充実していくことになる。
新しい怪談があればそのたびに書き記し、身近に不可思議な出来事が起これば伝聞含めてすべて記録する。ときに自ら怪談を創作し、ときに話だけでなく絵画や彫像なども集める。新たに怪談集が出版されれば即手に入れ、曰く付きの物品があると聞けば探しに行く。
さらには前の時代の手記が古くなると、後世のために新しい手記に書き写す。煩雑な記述があれば整理して、読みやすくまとめ直す。
気の遠くなるような作業が百年、二百年、三百年と続けられてきたのだ。
さすがに時代が新しくなるにつれて別の怪談集からの抜粋や新聞の切り抜きなど、形式的な記述が多くなっていくのだが……。そうした作業的な積み重ねが怪談屋敷を怪談屋敷足らしめているのも確かだった。
しかし、僕が興味を持ったのは、まとめられパターン化されていく怪談の記録よりも、怪談と比べるとまとまりのない、歴代当主の個人的な日記のほうだった。
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