もうどうでもいいのですよ、にいさま②
§
ある年の、夏休みに入って間もない日のことだ。
僕たちは家族揃って山へキャンプに行くことになった。
向かった先は、隣の県の山中に位置するキャンプ場。そのキャンプ場は地元でも評判の大きなキャンプ場だった。
その日はまる一日そこで遊んで過ごした。
夜には家族全員で花火をした。
花火はいろんな種類のものを、バケツがいっぱいになるくらいにたくさん買ってあったけど、どれも楽しくてあっという間になくなってしまった。最後の線香花火はちょっとしんみりした。
そして、一通りの花火をやり終えて片づけをしていたときのこと。
まだ幼い妹がこんなことを言い出した。
「ねえ――次はみんなで百物語をやりませんか?」
百物語。小学生の僕は知らなかったが、妹が言うには、百本の蝋燭を立ててみんなで怖い話をすることをそう呼ぶらしい。
妹の提案を受けて、母さんは困った顔をした。
「でも、いまからそんな数の蝋燭なんて用意できるの?」
「心配無用です。ほら、蝋燭ならここに」
そう言って妹が指し示した方向を見ると、キャンプ道具と一緒に、確かにまとまった本数の蝋燭が用意されている。
「ああ、そういえばあったわね」
どうして忘れていたのかしら――と、母さんはぼやいていたようだったが、すかさず妹が「ねえ、いいでしょう?」とせがむと、
「分かったわ。じゃあ、やってみましょうか」
と、すんなりと了承していた。
それから僕たちは準備に取り掛かった。
と言っても、大したことじゃない。
蝋燭立てを並べ、そこに百本の蝋燭を立てて、火をつけていく……。
ただそれだけの単純な作業だ。
大したことじゃないし、何もおかしくはない。
そう――おかしくはない。
準備を終えた僕たちは蝋燭を囲むと、さっそく百物語を始めることにした。
最初に、妹が百物語とはどういうものかについて簡単に説明をした。
妹は、母さんと父さんから「ところでどうして百話なの?」「なんで蝋燭を使うんだ?」などと質問されていたが、
「蝋燭を立てるだけで雰囲気が出るんですよ。こういうことは勢いと雰囲気が大事なのです」
というようなことを得意げに講釈していた。
話す順番は、一番手が僕、次に妹、母さん、父さんということに決まった。
家族四人で百話。
ということは、一人当たり二十五話を話す計算になる。
何から話すべきか僕は少し迷ったが、とりあえず適当に、思いつくままに話していくことにした。
そして僕が最初に語ったのは――、とあるお屋敷の話だった。
――――その昔、ある大きなお屋敷で病死する人や自殺する人が相次いだ。あまりに不幸が続くので、何かの祟りではないかと噂された。噂が広まるにつれて、屋敷を訪れる人は少なくなっていって、ついにはその屋敷に住む人もいなくなってしまった……。
だいたいそういう話だった。
「ふうん。それってどの辺の地域の話なのかしら?」
「その祟りっていったい何だったんだ? 幽霊とか出たりしたのか?」
母さんと父さんが交互に訊いてくる。
「そこまでは分からないよ。ただ、そういう噂があるらしいってだけ」
僕は肩をすくめて答えた。
すると妹が「ねえねえにいさま」と僕の袖を引く。
「ん? なんだ?」
「その話、私もどこかで聞いたことがあるような気がします」
「へえ、そうなのか?」
「はい。確かこのキャンプ場の近くに、似たようなお屋敷の話が……」
「えっ、この近く?」
「ええ。なんでも、このキャンプ場がある山のどこかには、地元の人たちの間で心霊スポットとして有名な古いお化け屋敷みたいな廃墟があるらしいのです。その廃墟がもとはそういうお屋敷だったという話があったような……」
「お化け屋敷か。ちょっと気になるな」
「はい――ですが、その話はまた別の機会に。いまは百物語を先に進めましょう」
僕は妹の話が少し気にかかったが、ひとまず「分かった」とうなずいた。
そうして僕たちは順番に怪談を語っていった。
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――――――……
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