にいさま、進捗はどうですか?⑧



 妹から原稿を返された僕は、すぐに自分の部屋へと戻った。

 ベッドに横になって天井を眺めていると、先ほどの妹の言葉が頭に浮かんでくる。

 妹は言った。


『つまらない』

『あらすじが平凡なのはおいておくとしても文章がよくない』

『小手先だけで怖がらそうとして失敗している』

『無理に難しい言葉を使おうとしないほうがいい』

『もっとシンプルに恐怖を追求すべき』

 

 ……などなど。

 怪談には真摯さを貫く妹のことだ。ここであえてデタラメを言うとは思えないし、実際につまらなかったのだろう。

 ショックだった。別に自分に小説の才能があると思っていたわけではないが、意外に心理的なダメージは深かった。

 そんなことを考えていると、どんどん気分が落ち込んでいく。やっぱり僕が小説を書くなんて間違いだったのでは……。


 というか、だいたいが小説は妹に言われて書き始めたものなのだから、当の妹からダメ出しされまくったとしても何もおかしくはないか……。いやしかし、それにしたってもうちょっと言い方ってものが……。いやいやだとしても……。

 僕が部屋でベッドで転がりながら悶々としていた、そんなとき――、

 ぴょこんっ! 

 机の上にあったスマホが通知音を鳴らした。

 確認してみると、後輩からのメッセージだった。







『先輩、進捗はいかがですか?』


 いつもと同じ質問文。

 進捗。

 進捗か。

 もはや何もかもむなしい。

 僕が何も返信できないでいると、



『大丈夫ですよ。私はいつまでも待ってますから』


 そんなメッセージが追加された。

 後輩のやさしさが身に染みる。

 ……と同時に情けなさも感じる。

 しかし何か返信しなければならないな。うーん、なんと返したものか。

 悩んでいるうちに、後輩から立て続けにメッセージが届く。


『先輩、もしかしてまた行き詰まってるんじゃないですか?』

『あっ、違ったらスミマセン』

『でもなんとなくそうじゃないかなって……』

『もし先輩がよければなんですけど、これから気分転換にちょっと遊びに出かけませんか?』


 また後輩に気を遣わせてしまったようだ。

 しかし、遊びに出かける、か……。

 せっかくの後輩からの誘いだが、いまはそういう気分になれない。

 ベッドから一歩も動きたくはない。

 それにこれ以上、後輩に気を遣わせるわけには……。 

 などと僕がいつまでも躊躇していると、


『実はもう先輩の家の近くまで来ちゃってるんですよね』


 そんなメッセージが表示された。


「え?」


 家の近くまで来てるだって?

 ちょっと待ってくれ。どういうことだよ。


『ほらほら先輩、かわいい後輩を待たせてもいいんですか~?』


 そこまで言われては僕も反応せざるを得ない。

 僕はすぐに後輩のもとへ向かう旨を返信すると、着の身着のままで家を飛び出したのだった。



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