にいさま、進捗はどうですか?⑦



 それから、さらに一週間後――。

 僕はようやく新しい小説を書き上げた。

 いままで書いてきたのは短編やごくごく短い、作品と呼べるかあやしいレベルの掌編が中心だったが、今回はもう少し長めの文章量だ。

 とは言え、原稿の枚数だけ見ればなんてことない中編なのだが、完成度ではいままで一番の出来栄えになったのではないかと思う。

 もっとも、これで妹や後輩が満足してくれるかどうかは分からないわけだが……。


「まあいい。まずは読んでもらわないことには始まらない。なるようになれだ」


 僕は完成したばかりの小説を印刷し、妹の待つ居間へと向かった。


「おーい、妹よ。いるかー?」


 見ると、妹はソファの上でスヤスヤ眠っていた。


「なんだ、無防備な奴だな……」


 起こすのも悪いので、ひとまずそっとしておくことにした。


「さてと……」


 今回、僕が書き上げた怪談小説。

 内容はごく普通のホラーだ。


 主人公はどこにでもいる平凡な高校生。ある夏の日。彼は友人たちに誘われ、森の奥にあるという古いお屋敷に肝試しに行くことになる。そのお屋敷にはさまざまな不気味な噂があった。主人公はメンバーによく知った親友がいたこともあり、半ば成り行きでお屋敷の中へ乗り込んでいくのだが……。


 ……というのが、大まかな内容だ。全体的にどこか不吉な雰囲気を感じさせる描写を多めにした。比喩表現などにもなるべく不気味さを煽る言葉をチョイスしたつもりだ。


「ふうー……」


 僕は原稿を読み直し、大きく息を吐いた。


「でもまあ、完成してよかった」


 後はこれを妹に見せて、感想を聞くだけだ。

 これでようやく解放される。

 とにかくいまは一刻も早く休みたかった。







「あ、にいさま……?」


 と思っていたら、妹が目を覚ましたようだった。

 妹はまだ眠そうに目をこすりながら、こちらを見上げてきた。


「おう、起きたのか」


 僕は平静を装って呼びかけた。


「はい……って、あれ? もしかして私、寝てました?」

「ああ、それは気持ちよさそうにな」

「え? あ、本当ですね。いつのまにかお昼になってる……」


 時計を見ると、すでに正午を回っていた。


「寝起きのところ悪いけど、これを読んでくれないか?」

「ん……、何ですかこの紙束……」

「何だとは何だ。僕の書いた怪談小説だよ。なかなかいい感じに仕上がってるんじゃないかと思うんだけど……」


 僕は妹に原稿を手渡した。

 妹はそれを手に取ると無言のまま読み始めた。妹がどんな反応をするのか、内心ドキドキしながら見守っていると、やがて妹は原稿をテーブルの上に置いた。


「あの……どうだった、かな……?」


 妹はしばらく黙り込んでいたが、程なくして彼女の口から放たれた言葉を聞いて僕は愕然とした。


「これではダメです、にいさま!」




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