にいさま、進捗はどうですか?⑥
それから数日経ったある日。
僕は自分の部屋にこもって小説を書いていた。
と言っても、あれ以来ほとんど筆が進んでいない状態なのだが。
「うーん……」
パソコンの画面を前にして頭を抱える。
どうしたものか。このままだといつまで経っても書き終わらない。
締め切りも近づいているというのにどうすればいいんだ。いっそ小説を書くこと自体をやめてしまうという手も……。
そんな考えが頭をよぎるがすぐに打ち消す。
いやいや、ダメだダメだ。この程度で投げ出していては、妹にも後輩にも立つ瀬がない。
だがしかし……。
僕の思考は行きつ戻りつを繰り返していた。
そのときだった。
ぴょこん! と、スマホの通知音が鳴った。
画面を確認すると、そこには、
『先輩、進捗はいかがですか?』
後輩からの進捗を催促するメッセージが表示されていた。
まったくどいつもこいつも進捗進捗と……。
『全然ダメだよ。ネタはあってもそれをなかなか文章に出来なくてさ……』
僕は観念してありのままの現況を報告する。
あれ以来、後輩からは毎日のように進捗を催促されていた。
しかし、僕はそのたびに「もう少し待ってくれ」「まだダメだ」と返し続けてきたのだ。
さすがに先延ばし戦略も限界が来たか。後輩もいい加減愛想を尽かす頃合いかもしれない。
僕はおそるおそるメッセージを送信した。
すると、
『大丈夫ですよ。私、待ってますから』
予想外の反応だ。
愛想を尽かされるどころか、むしろ気遣われているような文面だ。
僕がやや呆気に取られてると、後輩から連続してメッセージが届く。
『あの……先輩、これはもしかしてなんですけど……』
『先輩がなかなか書けないでいるのって、私がいろいろ言ってしまったせいですか……? それでプレッシャーを感じているとか……』
図星だった。
続けて後輩から絵文字混じりの文章が送られてくる。
『だとしたらゴメンナサイ!』
『でも、先輩のジャマをしたかったワケじゃないんです! それだけは信じてください!』
後輩の指摘は図星ではあったが、しかしここで正直に答えれば、後輩にますます気を遣わせてしまう。
ここはなるべく直接的な表現は避けて答えるべきだろう……。
僕はポチポチと返信をする。
『そんなことはないよ。ただ単に僕の実力不足なだけだから』
『だから、あまり心配しないでくれ』
僕がそう返すと少し間を置いて、
『……わかりました。先輩の言葉を信じることにします!』
『私、待ってますからね!』
やはり気を遣わせているような感じの文章が返ってきた。
僕はいったい何をやっているんだ。
つくづく自分の力不足を痛感する。
「……よし」
僕はキーボードに手を置いた。
もう迷ってばかりはいられない。
僕は姿勢を正し、タイピングを始めた。
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