にいさま、進捗はどうですか?④



「ま、まあ、お前の言う通りいままで書いた作品はそうだったかもしれない。僕も入部したてで小説の書き方もよく分かってなかったところがあるし」

「先輩がよく分かってないのは何も小説の書き方だけじゃないと思うんですけど」

「……なんか言ったか?」

「いえ、失礼。それで何も分からない先輩がこの私にどのような反論を?」

「だからお前はなんでそんなに偉そうなんだよ……」


 机を挟んでふんぞり返る後輩に僕は抵抗を試みる。


「僕は確かに新入部員だけど、いつまでも未熟なままじゃない。いまだって小説書き特有の悩みをだな……」

「そんなこと言って、本当は書こうと思っても書けないんじゃないですか?」

「い、いやいや! 実際いまもどうすればもっと怖い怪談小説を書けるか試行錯誤してたんだ」

「そうなんですか?」

「そうだ。そのためにいろいろな要素を盛り込んでいて……だからこそなかなか筆が進まないというか」


「ふうん。じゃあ、いま書いてるのは具体的にどこがどう怖いんですか?」

「えっと、そうだな……。えー、あー……、そうだ! 例えば、主人公の前に死んだ友人が幽霊になって現れるってシーンがあるんだけど、そのときの描写が結構リアルというか……まるで実際に体験したみたいな感じになる……予定なんだよ」

「幽霊ですか?」

「ああ」

「でも、それってよくある展開じゃないですか? ホラーなら別にめずらしくもないと思いますけど。それで本当に怖くなるんですか?」


 後輩はズケズケと質問を重ねてくる。








「う、うん。そうかもしれないけど、そこはあえてよくある感じを突き詰めていこうかなって。ほら、よく言うだろ? 奇をてらうよりも王道で勝負してこそって」

「よく分かりませんが……。要するに先輩は、設定やキャラクターの奇抜さよりも、文章の質そのもので勝負しようとしているってことですか?」

「そう! それそれ! それが言いたかった!」


 僕は後輩の補足に全力で乗っかった。

 そんな僕を後輩は冷ややかに眺めて、


「なるほど。先輩の熱意はよく伝わりました」

「そ、そうか」

「ですけど、やっぱりその幽霊の話はやめたほうがいいと思いますね」

「ふえっ⁉」


 あまりに光速のダメ出しに思わずヘンな声が出る。








「だって、そんなの誰だって思いつく展開じゃないですか。わざわざ自慢する部分がそれだけなのはヤバいですよ」

「そこまで言わんでも……」


 家では妹からダメ出しを喰らい、学校では後輩からダメ出しを喰らう。

 僕に逃げ場所はないのか。

 頭を抱える僕を見て、後輩はひとつため息をつき、


「先輩、よく考えてみてくださいよ」

「……何をだよ」

「今回の作品は、先輩の記念すべき文集発表作品第一号になるんですよ? どうせならもっとオリジナリティのあるアイデアが欲しいじゃないですか」

「オリジナリティ、ねえ……」

「何かないんですか? 先輩がこういう話を書きたいなって思うものは」

「うーん……」


 そう言われてもパッと思いつくものはない。

 そもそも僕の創作意欲はそこまで高くないのだ。怪談小説を書くことになった発端が、妹に言われたからなのだから当然と言えば当然だろう。

 そんな僕が急に自分から画期的なアイデアを思いつけるようになるというのも無理な話だった。

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