にいさま、進捗はどうですか?②
「うふふ、楽しかったですねえ。やっぱりにいさまとお話しするのは楽しいです」
「…………」
「あら、どうかなさいましたかにいさま? 先ほどからずっと黙ったままですが」
「…………」
「あの、にいさま? 大丈夫ですか? ……ねえ、にいさま?」
「…………」
「にいさまってば! もー、どうして無視するんですか!?」
「……も」
「も?」
「……もう勘弁してくれ」
僕は疲労困憊していた。
あれからかれこれ三時間ばかりぶっ続けで妹の怪談講義につき合わされたのだ。
もう僕のライフはゼロだ。
対する妹はまだまだ語り足りないようで、応答不能な僕を見て不満そうに頬を膨らませている。
こいつの怪談ポテンシャルは無尽蔵なのか?
僕はこの数時間の出来事を思い返す。
最初はまだよかった。
妹が語り部となって語る怪談はどれもそれなりに怖くて参考になったし、僕も聞き手として楽しむことが出来ていた。しかし、妹の怪談は次第に内容がエスカレートしていき、しかもひとつひとつの話がまた恐ろしいほどのクオリティの高さだった。結果、僕は未知の恐怖に震え続け、精神的に疲弊することになった。
しかも、妹の講義はそれで終わらなかった。
一通り怪談を語り切った妹は、今度は怪談の創作論を語り始めたのだ。
古今東西の有名な怪談から、最新のホラー映画まで、ありとあらゆるさまざまな物語を例に、怪談を書くとはどういうことか、いかにして上等な怪談は出来上がっているのかということを滔々と語ってみせた。
その上、有名な作家の名言などが出てくるたびに僕に復唱を要求し、あれを読めこれを見ろと指南した。
僕は序盤まではしぶしぶ従っていたものの、途中から情報の濁流に脳の処理が追いつかなくなり、次第に軽度の頭痛に襲われ出した。結果、僕は肉体的にも疲弊するに至った。
それでも妹の講義は止まることはなく、ついに僕は限界を迎えて机の上に突っ伏してしまったのだった。
「まったく、にいさまったら。この程度で音を上げているようでは先が思いやられますね」
「この程度ってお前……まさか、まだ何かあるのか」
「まさかも何も、今回はほんの入門編ですよ」
「……うええ、マジか」
「安心してくださいにいさま。今回の話を踏まえて、にいさまがちゃんと怪談のなんたるかを勉強してくだされば、にいさまでも次回以降はもっと楽しめるようになっているはずですから」
「これ以上、僕に何をしろっていうんだ……」
「ふふ、それはもちろん」
妹は僕の耳元に口を近づけると、
「にいさまと私の二人で、最高の怖い話を創り上げるのですよ」
そう言って妹は不敵に笑った。
それはそれまでのキャッキャとした無邪気な笑顔とは違う、妖艶な微笑みだった。
僕はお前が一番怖いよ……。
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