私はにいさまの妹ですよ④


「では、他の文芸部員の方はどうなのでしょう? 何か聞いていないのですか?」

「うーん。他の部員なあ……」

「また何か言いにくいことが?」

「言いにくいというか……あの文芸部、ほとんどの部員が幽霊部員なんだよね」

「そうなのですか……?」

「うん。いまだに全員が集合してるとこ、見たことないし」


「そんな感じで部としての活動は大丈夫なのでしょうか……」

「まあそんな感じだからこそ、穴埋め的に新入部員の僕が原稿執筆に追われてるっていうのもあるっていうか……」

「ああ、なるほどです」


 妹は納得したようだった。

 しかし文芸部の実態が明らかになったところで、僕の原稿の進捗に影響はない。

 妹と話しているうちに気分が変わって多少は考えがまとまるかとも思ったが、そんなことはなかった。自分の追い込まれ具合を確認しただけだった。

 本当にどうしたものか。






 夜見嶋よみしま先輩はこういうときどうやって乗り切っているのだろうか……。いや、あの先輩は執筆に行き詰まったりはしないか。先輩が原稿を前に長時間手を止めている様子など想像もできない。

 僕は部室でキーボードを叩き続ける先輩の勇姿を思い出していた。

 誰も訪れることのない部室でただ一人、不平も不満も言わず、毎日ひたすら執筆に励む先輩。

 いまとなってはあまりに見慣れた光景。

 初めてあの部室で出会った日のことが、もはや遠い過去のことのようだ。


「……あっ、そういえば」


 先輩の姿を思い返していて、僕の頭の中でふっとよみがえってくる記憶があった。

 確か、あれは……。


「にいさま、何か思いついたのですか?」

「うん。すっかり忘れてたけど、入部してすぐの頃に、先輩から部室で預かったものがあったんだった。えーと、どこにいったかな……」






 僕は机の横にあった自分の通学用バッグの中を探った。

 しばらくゴソゴソとやっていると、手の先に引っかかるものがあった。


「あった。これだ」


 僕はバッグの底からあるものを拾い上げる。

 それは、一個のUSBメモリだった。


「にいさま、それは?」

「USBメモリだよ。僕が入部したときに先輩から渡されたんだ。なんで忘れてたんだろ」

「そのUSBメモリが、小説執筆の役に立つものなのですか?」

「役に立つ……かどうかは、ちゃんと見てみないと分からない。だけど……」


『これをきみに託そう。きっと何かの参考になるはずだ』


 このUSBメモリを渡してくれたとき、先輩はそんなようなことを言っていた。


「先輩が言うには、なんでも文芸部に代々伝わっているものってことらしい。どうも過去の文芸部員が残していった作品のデータが入っているとかそういうことだったかな」

「それは参考になりそうですね」

「とにかく一度見てみよう」


 僕はUSBメモリをノートパソコンに差し込み、画面に出てきたフォルダを開く。

 フォルダの中にはずらっといくつかのテキストファイルが並んでいた。そのうち、先頭に表示された『作品1』というファイルをクリックする。

 すると、テキストファイルが開き、白い画面に文字列が表示された。

 そこに保存されていたのは、一編の小説のようだった。

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