私はにいさまの妹ですよ③
「そんなことより――ねえ、にいさま」
仕切り直したように妹が言った。
「な、なんだ?」
「にいさまが小説を書こうと思ったのは、その文芸部にいる先輩の方がきっかけだったのですよね?」
「まあ、そうだけど」
「当然、その先輩はにいさまが小説を書いた経験がないことも知っているのでしょう?」
「そりゃあ、そういうふうに僕が言ったのが入部の理由みたいなもんだからな」
あの春の日。
文芸部の部室での僕の何気ない一言。
『小説って僕でも書けますかね……』
あの一言に先輩が反応していなければ、僕はあの部に入ってはいなかっただろう。
「なら、その先輩の方から何かアドバイスなどはもらっていないのですか?」
「先輩からのアドバイスか……。先輩は自分の執筆に忙しいからな。あんまり他人の作品にはどうこう言わない人なんだよな」
「ですけど、その先輩はその文芸部の部長さんなのですよね?」
「ああ、そうだよ」
「――では、チュートリアルと言いますか、小説を書いていて行き詰まったときの対処法のようなものなどは教えてくれていないのでしょうか?」
妹の疑問はもっともだった。
しかし、文芸部部長の
だが、とにかく速筆であるがゆえに作品数的な実績は部員の中でも随一だ。ただ部で一番多く作品を書き続けているというだけの理由で部長の座に収まっている。
活動停滞気味の部が少なくない我が校の文化系クラブにおいては、稀に見る変人である。
……というのが、僕が文芸部に入るときに聞いた評判だった。
「あら。でもにいさまは以前に、その先輩の方から創作に関するハウツーを聞いたとおっしゃっていませんでしたか?」
「ああー、そういやそんなことも言ったような……」
「そのハウツーは今回の役には立たないのでしょうか」
「あれなあ……」
夜見嶋先輩の創作ハウツー談義。
僕が自分にも小説を書けるかなどと口走ってしまったがために、先輩なりに創作のなんたるかを語ってくれたということが、あるにはあった。あったのだが……。
「あれは、その……」
「何か言いにくいことでも?」
「いやあ、そういうわけじゃないんだけど」
「では、何が?」
「一応、先輩も小説を書くための簡単な手順みたいなことは教えてくれたんだよ。でも、そこから先の創作談義は何と言うか……、ちょっと突っ込んだ内容になると先輩の独自色が強くなって、結局あんまり参考にならなかったんだよなあ……」
夜見嶋先輩の執筆ペースは鬼のように速い。
が、それが常人にも応用できるかと言うとそうではない。
絶えず創作意欲に燃え続けている先輩の話は、僕のような凡人が聞いても実現不可能な精神論か理想論にしか聞こえなかったのだった。
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