先輩、楽しい話をしましょう⑧


「まあ、でも何が一番楽しい話かって言ったら、先輩そのものがそうなんですけど」


 後輩が得意げに言う。


「僕が?」

「そうですよ。先輩は貴重な転校生ですからね。こんな楽しいネタはありませんって」

「いや、僕は確かに転校生だけど、別に僕自身は楽しい話題にはならないだろ」

「そんなことはないですよ!」


 後輩は指を立ててチッチッチッと揺らした。






「いいですか、先輩」

「なんだ」

「私たちが通う学校では昔から七年に一度、必ず一人の転校生が現れると言われています」

「言われているのか……?」

「言われているんです」


 言われているらしい。


「でも、七年ってなんか半端じゃないか? 十年に一度とかじゃなくてなんで七年?」

「そこは重要ではありません」


 重要じゃないらしい。


「というより――転校生なんてそんなに特別なものでもないんじゃないか? そんなに言い伝えみたいになってるのが、まずよく分かんないんだけど」

「いえいえ。それは先輩が田舎を甘く見ていますね」

「えー、と言うと……」

「何しろこんな何もない田舎町です。外に出ていく人間はいても、入ってくる人間はめちゃくちゃ少ないんですよ」

「ああ、なるほど。だから外から入ってくる転校生が特別だと?」

「まあそうなんですが、それがそう単純なお話でもないんですねえ~」


 単純ではないらしい。


「いや、じゃあなんなんだよ」

「まあまあ、そう焦らないでくださいよ」






 後輩はきししっと無邪気に笑って僕をなだめた。

 ……何かごまかされているような感じがする。どうにも居心地が悪い。

 しかし、いくら田舎とは言え、転校生がそんなにめずらしいものだろうか。転校生がやって来る周期が七年というのもよく分からない。転校生の来る来ないをあらかじめコントロールできるはずもないので、この地域か、あるいはここの学校の独特の縁起担ぎか何かだろうか。


 ……あれ?


 ちょっと待てよ。

 僕がこの春ここに転校してきたばかりなのは疑いようのない事実だ。

 それじゃあ、その転校してきたばかりの僕を案内しているこの後輩は、いったいどういう関係で出来た後輩なのだったっけ?

 部活?

 委員会?

 それとも他の課外活動?

 というか、こいつの名前って何だっけ??


 うーん、思い出そうとしても頭の中に靄がかかったようになってしまって記憶が不鮮明になる。記憶の糸を手繰ろうとすればするほど、ぎゅっと締めつけられるような痛みが走って何かが思考を阻害する。

 これではいけない。


 僕は考えるのをやめた。



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