先輩、楽しい話をしましょう⑦


「もー。ほら先輩、どうせなら楽しい話をしましょう」

「楽しい話?」

「そうです、楽しい話です! ありますよね? 先輩の楽しい話」

「楽しい話ねえ……」


 あったような気もする。

 でも、あえて話せと言われると、なかなか出てこない。

 それよりも――、


「楽しい話、もいいけど……その、何かって知らないか?」

「えー、怖い話ですか~?」


 後輩はウエーッといかにも嫌そうな顔をした。






「先輩、いっつもそれ言いますけど、いったい何なんですか?」

「え、いやあ。ちょっとわけあって集めてるんだよね、怖い話を」

「何ですかそれ」

「そこを一から説明すると長くなるんだけどさ」

「ならいいです」


 バッサリだった。


「じゃあ掻いつまんで言うと、要するに怖い話っていうのは……」

「ああ~っ、もうヤメヤメ! 中止! 怖い話は中止です!」


 後輩は胸の前で腕をクロスさせて、×印のジェスチャーをした。


「私、怖い話って嫌いなんですよね」

「そうなのか?」

「だいたいそんなに怖い話ばっかりして何になるって言うんですか?」

「それは……」

「そんなことよりですねえ、先輩。もっと楽しい話をしましょう」

「楽しい話?」

「ええ、楽しい話です」

「楽しい話かあ……」


 そう言われても思いつかないものは思いつかない。

 僕は早くも暮れかけてきた空を眺めた。

 確かに、怖い話なんか集めてどうするのかというのはもっともな意見だ。

 後輩の言うように、どうせ集めるなら楽しい話のほうがいいんじゃないか……?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る