先輩、楽しい話をしましょう⑥


「あれ……?」


 きょろきょろと周囲を見回すも、夜見嶋よみしま先輩の姿はどこにも見当たらなかった。

 無人になった廊下はいっそう薄暗く感じられた。


「せんぱーい? 何してるんですか? 早く行きますよー?」


 先に靴を履き替えていた後輩が昇降口のほうから僕を呼んだ。


「ああ、ごめん。いま行く」

「もーっ、こんなにかわいい後輩を待たせるとか人としてどうなんですか?」


 プンスコと怒る後輩。

 いくらなんでも「人として」は言い過ぎでは?

 なんて反論しても、どうせ無駄なんだろうな……。

 僕はまたもや何度も謝りながら、今度こそ彼女の隣まで追いつく。







「まったく。先輩がこの町の地理とかについて何も知らないと言うから、この私がわざわざ案内してあげようと言っているんじゃないですか。分かってるんですか?」


 そうなのだった。

 今日はこの後、後輩に地元のことをいろいろと紹介してもらうということになっているのだった。

 最初のきっかけがなんだったかはすでに曖昧だが、後輩と話していて僕がこの地域一帯の事情についてあまりに無知すぎることが露呈し、見兼ねた後輩が僕を連れ出すことになった……と、だいたいそういう感じの流れだったのではないかと思う。


 あれ?

 前にも僕は誰かに町を案内してもらわなかったっけか?

 でも、後輩の他に僕を案内してくれるような奴はいないし……うーん?


「先輩? どうしましたか?」

「えっ、いや。なんでもないよ」

「そんなにボーッとしてばっかりでどうするんですか。あんまり余計なこと考えすぎないほうがいいですよ?」

「ははっ、そうだな。そうだよな」







 僕と後輩は並んで学校を出た。

 校門をくぐると、道路と田畑ばかりの風景が広がる。

 何もない田舎道を、後輩と二人でとぼとぼと歩く。


「先輩はホントに鈍臭くて辛気臭いですね~。そんなんじゃモテませんよ!」

「別にモテなくてもいいんだけど……」

「えーっ、ダメですよ。ダメダメ! 全然ダメです!」

「そんなにダメって言わなくたって……」


 執拗なダメ出し。

 後輩の勢いにはどうも押され気味になってしまう。


「ダメダメって、じゃあ何をすればダメじゃなくなるんだ?」

「ぶーっ、そういうことを聞いちゃうところがダメダメですね」

「そうなのか……」


 僕は何も言えなくなってしまう。

 シュンとする僕を見て、後輩はますます不機嫌になっていく。

 どうすればいいんだ。



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