先輩、楽しい話をしましょう③


 僕の顔をしげしげと観察していた後輩だったが、途中で何かに気づいた様子で、


「あー、先輩。さては悪夢とか言って、実はなんか恥ずかしい夢でも見てたんじゃないですか〜? 何人もの女の子に囲まれてる萌え萌えハーレムみたいな感じの夢とか……」

「うぇ⁉ そ、そんなわけないだろ!」

「えー、ホントですか?」

「ホントだよ!」

「ホントにホントですか〜?」

「ああ! もうっいいだろ、別にそんなこと!」


 後輩の追及に耐えかね、僕はつい怒ったような大声を上げてしまった。

 そんなつもりはなかったのだが、後輩のしつこい言動にことのほか気が立ってしまっていたらしい。いつにない気のたかぶりように、自分でも驚いた。

 ……しかしなんだろう。

 初めてのはずのこの感情の起伏にも、僕は既視感のようなものを覚えずにはいられなかった。

 何かがおかしい。

 そういうざわざわした感じが心の底で胎動していた。






「えっ、ちょっとちょっとなんですか。夢の話にムキになっちゃって。いつものノリでいじってみただけじゃないですかあ。もしかして図星でした?」

「う、うるさいな」

「きししっ、おかしな先輩ですねえ」


 後輩は挙動不審気味な僕を見てにまにまと笑っていた。


「というか先輩、いつまでそこに寝そべってるんですか。いい加減ちゃんと起きてくださいよ……って、何ですか、急にそんなマジメな顔して」

「……なあ」

「だから何ですか」

「ここにいる後輩は現実だよな?」

「えっ、マジで何なんですか? 頭でも打ちましたか?」


 ひどい。

 しかしこの後輩の僕に対する態度は、どんなときもだいたいこんな感じだ。


「いや……何でもない。忘れてくれ」

「先輩、まだ寝ぼけていますね? どんだけぐっすり安眠してたんですか」


 後輩はむうっと頬を膨らませる。


「確かにここで待っていてくださいという約束はしましたが、待ち人をほっぽって爆睡しててもいいとは言いませんでしたよ、私は」

「悪かったよ」

「ホントに先輩はどうしようもない人ですね」


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