やっと思い出してくれましたね、にいさま⑥


「この話はね、あるときぱっと頭の中にストーリーが浮かんできて、三日とかからず一気呵成に書き上げたものなんだ」

「三日とかからず……本当にいつも速筆ですよね」


 渡された原稿の厚みからして、おそらく数万字以上の長編だろうと僕は推察した。


「あれは私としても自己ベストだった。昼夜問わず寝食を惜しんで書き続けた。まさに何かにとり憑かれているかのようにね。それくらいスラスラと書けた。それが――」


 それが。

 先週末の深夜。先輩は無事に原稿を完成させた。すべてをやり切った先輩は、テキストファイルを保存し、万感の想いで床に就いた。

 そして、数時間後。

 目覚めた先輩が保存しておいたファイルを開いてみれば――、










 第一章――

 ■■■■■■■■娯?補?募?讒倥?∵?悶>隧ア繧偵@縺セ縺励g縺???■■■■■■■■縲?縺昴≧險?縺」縺ヲ蜊?棧縺ッ縲√?縺オ縺」縺ィ縺ゅd縺励£縺ォ蠕ョ隨代s縺ァ縺ソ縺帙◆縲■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■縲?蟷ウ譌・縺ョ螟懊?縺薙→縺?縺」縺溘?ゅ☆縺ァ縺ォ螟暮」ッ繧よク医∪縺帙?∝ヵ縺瑚?蛻??驛ィ螻九〒荳?莠コ縺ァ驕弱#縺励※縺?◆縺ィ縺薙m縺ォ縲■■■■■■■■■°縺代k繧医≧縺ォ遯∫┯繧?▲縺ヲ譚・縺ヲ險?縺?叛縺」縺溘?縺悟?鬆ュ縺ョ荳?險?縺?縺」縺溘■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 ――縲梧?悶>隧ア?

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 ……本文の表示が丸ごとバグったようになって読めなくなっていたのだった。






「あのときは愕然としたね」

「それは……パソコンの不具合とかではなく?」

「私も最初はそう思ったさ」


 直後、先輩はバグってしまった原稿の文章を別のパソコンを使って入力し直した。

 話の内容は全部頭の中に入っていた。

 ひたすら同じ文章を打ち直すだけの単調な作業。

 だが、不思議と苦痛はなかった。むしろまた同じ物語を書くことに悦びを覚えたくらいだった。

 高揚感すらあった。キーボードを打つ手が止まらなかった。

 ほどなくして、原稿は再び完成した。


 しかし――結果は同じだった。


 試しに、スマホで打ち込んでみたり、ノートに手書きで書いてみたりもした。

 だが、どの方法でも駄目だった。

 いずれの場合でも、冒頭まではかろうじて読むことができても、物語が本題に入るにつれて文章は判読不能なものへと書き換わっていったのだという。

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