にいさまは何も心配する必要はありませんよ⑨
「何だ、はっきりしないな」
「悪い……」
「まあいいさ。言いにくいことを無理に言わなくても。こっちこそ悪かったよ」
「そう言ってくれると助かる。持つべきものは親友だな」
「よせやい。照れるじゃないか」
そのときは、結局それ以上の話を聞くことは出来なかった。
しかし、転機は突然訪れた。
数日経ったある放課後、話の流れで
「めずらしいね。才吾が人を家に招くなんて」
「ま、まあな……」
「それに随分久しぶりじゃないか、才吾の家に行くの。いつ以来だっけ? 中学のとき夏休みだったかに行ったっきりか?」
「あー……、もうそんなになるか」
才吾の返答はやはり振るわなかった。
そうこうしているうちに才吾の家の前に着いた。
鬱蒼とした木々と高い塀に囲まれて建つ、古い木造家屋だった。
「……ん? 才吾んちって前からこんなんだったっけ?」
「…………」
何気ない一言のつもりだったが、才吾からの応答はなかった。
何か気に障るようなことを言っただろうか。顔色を窺おうとするが、才吾は視線を合わせようともしない。才吾の態度は気になったものの、その場は深く詮索することはせず、家に入った。
てっきりすぐに客間か才吾の自室に通されるかと思ったが、玄関を上がってからはしばらく廊下を歩くことになった。
長い廊下だった。板張りの廊下の途中には部屋どころか窓の一つもなく、ただ白い壁だけが延々と連なっていた。
「な、なあ、これ、どこまであるんだ?」
こちらの問いかけには答えず、才吾はまっすぐに家の奥へ奥へと歩いていく。
廊下はまだまだ続いているようだ。才吾の肩越しに前のほうを覗いてみるが、その先は暗がりになっていてよく見えない。
いくらなんでもおかしい。一続きの廊下がこんなに長いわけがない。廊下ばかりが続いていて部屋がまったくないのも妙だ。どれだけ広い家なのかということになる。どう考えても普通ではない。
自分はいまどこを歩かされていて、どこに連れていかれようとしているのか……。
疑問は、次第に焦りへと変わっていった。
才吾は黙って先を歩き続けている。
思えば、この家に入ってから一度も才吾の顔を見ていない。おそらくいま声をかけても彼が振り返ることはないだろう――何故かそういう確信があった。
どうすべきか。
才吾には悪いが、無視して引き返したほうがいいのか。
しかし、この廊下を一人で戻ったところで無事にこの家から出ることが出来るのか……。
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