にいさまは何も心配する必要はありませんよ⑧



 才吾さいごはここ数日、ずっとどこかよそよそしい雰囲気だった。

 会話の途中で、糸が切れたようにぼーっとしていることがたびたびあった。

 今日は特にそれがひどく、会話は通じるもののこちらから話しかけてもろくに目線を合わせてもこなかった。最初は何でもないと言っていた才吾だったが、何でもないことはないだろうと僕はやや強引に事情を聞き出した。すると、


「――実はから頼まれ事をされててな、だから早く帰らないといけないんだ」


 才吾は少し気恥ずかしそうに答えた。

 しかしその返答を聞いて、僕は奇妙に思った。

 才吾とはかれこれ数年来の付き合いになるが、それまで兄弟姉妹がいるなどという話を耳にしたことは一度もなかったからだ。








 確かに、思い返せば最近の才吾は少しいつもと違っていた。

 僕と田中河内たなかごうち才吾さいごは親友とも呼ぶべき仲だった。毎日放課後となればともに帰宅部同士、二人で公園やゲームセンターに繰り出し、休日はお互い特に用事がなくとも適当に落ち合っては街をぶらぶらして過ごす。そういう間柄だった。

 それが、ここ数日は連れ立って出かける機会もめっきり減っていた。


 才吾は、以前は僕以外の生徒とはほとんど交流らしい交流を持たなかった。が、ここのところは他のクラスメイトの女子や後輩にも何か相談のようなことをしているようで、休み時間にも慌ただしく教室から出ていってしまうことが多かった。

 どうやら部室棟や生徒会にも出入りしているらしく、学校外で地域のイベントに参加しているのを見たという話もあった。今日、昼食をともにできたのは実に数日ぶりだった。






 何が友人を変えたのか。

 もしかして彼女でも出来たのかと探りを入れてみたりもしたが、どうもそういうことではないようだった。


 ――じゃあ、何なんだ。


 そう思っていた矢先に才吾の口から出たのが、いままで聞いたことのない「妹」の存在だった。


「何言ってんだい。才吾、お前妹なんかいないだろ」

「そ、それはえーと、一言では説明しづらい事情があると言うか何とゆーか……」


 才吾は何故か言葉を濁し、目をそらした。

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