にいさまは何も心配する必要はありませんよ⑦
「――という話を聞いたんだよ」
ある日の昼休みだった。
僕は同じクラスの友人に、いままで聞き集めた恐怖譚を披露していた。
「はー、また変な話を持ってきたもんだな」
昼食の菓子パンを齧りながら、
才吾は僕の怖い話蒐集活動をクラス内でフォローしてくれた例の友人であり、普段から頻繁に連絡を取り合ったりと、このクラスで僕と特に親しくしてくれるほぼ唯一の相手だ。
この融通の利く友人がいなければ、創作活動の一環とは言え、怖い話集めなんて奇特なことをやっている僕はきっとクラスで孤立していただろう。
ありがたいことこの上ない。
「その先輩ってあれだろ、確か陸上部の」
「知ってるのか」
「運動部連中の間では有名な話らしいな。優秀だったのに、いつのまにか学校来なくなったって……その、幽霊云々のところは初めて聞いたけど」
「へえ、僕は聞いたことなかったね。やっぱ才吾、事情通だな」
「まあ……な」
才吾は僕の隣でもそもそと菓子パンを食べている。
しかしその目は眠たげで、いまにもうつらうつらと舟をこぎ始めるのではないかというくらいどこを見ているのか分からない表情をしていた。
「なあ、眠そうだけど寝不足? 大丈夫か?」
才吾は答えなかった。
何か変な感じがした。
「おいって、ホントに大丈夫か?」
僕は今度は少し強めに言った。
そこでようやく才吾ははっとした様子で、
「……あ、え? 何だっけ?」
そんなことを言ってにへらと笑ってみせた。しかしその顔は、深い眠りからたったいま目覚めたかのようにボケっとしていた。
「どうしたんだよ、今日はなんかおかしいぞ」
「まあ、ちょっと考え事してて……」
「ふうん?」
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