第四夜
にいさまは何も心配する必要はありませんよ①
怪談を書かねばならないという強迫的な想いに、僕は囚われていた。
怪談。ホラー。怖い話。
そういうものを集めて、自分なりの物語に仕立てなければならない。
他でもない、僕のたった一人の妹のために――。
たった一人の妹。
誰もない広い屋敷に、僕と妹は二人きりだった。
妹は言った。
「なるべく多くの恐怖を集めてください」
――と。
しかし、ここでいう「恐怖」とは何だろうか。
恐怖。恐ろしいもの。怖いもの。
そもそも恐怖を集めるとはどういうことなのか。
「何でもいいのですよ」
妹はささやくように言う。
「物でも、お話でも、音楽でも、映像でも。とにかく多ければ多いほどよいのです」
「ホントに何でもいいのか?」
「ええ、数があれば何でも」
「それは、僕が直接体験したものじゃなくても構わないってこと?」
「もちろんです。いまは数を集めることが先決です」
妹の言うことは相変わらずよく分からない。
「うーん、そういうもんなのか……?」
「そういうものですよ、にいさま。ですが、いずれたくさんの恐怖が集まった暁には、最終的にそれらをにいさま自身の言葉でまとめてみてください」
「僕自身の言葉で……」
「はい。その頃にはきっと、にいさまの中に、にいさまだけの、にいさまオリジナルの『恐怖』が出来上がっていることでしょうから」
期待していますよ、にいさま。
一言そう言い添えて、妹は造り物のような笑みを浮かべた。
その笑顔に言い知れない感情を覚えて、僕は身震いした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます