怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑰
そうして目ぼしいものを見終え、徐々に日も暮れてきた頃。
町外れの道を歩いているとき、
「……私ね、妹がいたの。二つ年下の」
「妹?」
唐突に出てきた「妹」という言葉に僕はドキリとした。
「妹は私と違って明るくていい子で……。クラスでも浮いてなくて、人気があって、誰からも好かれる性格で」
どうして突然妹の話を始めたのかは分からなかったが、身内の身の上話をしみじみと語る志城さんの姿は――とても寂しそうに見えた。夕暮れの薄暗さも相まって、こっちまでしんみりとしてくる。
……というか、クラスで浮いている自覚はあったんだな。
「だけど、みんなに人気がある分、妹はちょっと八方美人なところがあってね。それは本人も気にしてたみたいなんだけど、もともと頼まれると断れない性格だったこともあって、学校でも誰とでも親しくしていたの……結果的には、それがよくなかったんだけど」
志城さんはそこでキュッと口を閉じ、黙ってしまった。
なんだ。
これ、僕はどういうふうに返事をするのが正解なんだ?
僕は沈黙する志城さんの様子を窺いながら、そっと問いかけた。
「えっと……。聞いていいのか分からないけど、なんだかその言い方だと、全部、昔の思い出話みたいに聞こえるんだけど……いま、その妹さんはどうしてるの?」
「うん……。妹はね……ある日を境にいなくなっちゃったの」
「いなくなった?」
「ほら、言ったでしょ? 怪談屋敷に肝試しとかで無理矢理入る人がいるって。実際、面白半分で侵入しようとする若者とかがたまにいてね。
――あのときもそうだった」
「あのとき?」
「去年の話なんだけどね。とある若者グループ――私が通ってた中学の人たちが、怪談屋敷に肝試しに行ったんだけど」
「それって……」
「もう分かっちゃったよね。そのグループに、私の妹もいたの」
志城さんの妹は、昨年の夏からずっと行方不明になっているという。
当時中学二年生だった志城さんの妹は、夏休み中にクラスの友人の男女数名に誘われて、肝試しに行った。
そして――そのまま帰ってこなかった。
その肝試しで向かった先というのが、いわゆる怪談屋敷。
現在、僕が住んでいる家だ。
失踪時の詳しい状況はよく分かっていないらしい。
一緒に肝試しに行った中学生十名のうち、志城さんの妹を含む三名はいまだ行方不明。無事帰ってきた生徒七名も、怪談屋敷に到着してからのことはよく覚えていないという。
中学生たちの証言をつなぎ合わせると、当時の経緯は以下のようだ。
夏休み前半のある日。クラスの何人かで肝試しに行く計画を立てた。当日集まったのが男子六名、女子四名の計十名。午後六時半頃に駅前で落ち合い、それから寄り道をしながら徒歩で山を登り、屋敷の前に着いたのが午後八時過ぎ――地元住民の目撃証言もあり、そこまでは間違いないらしい。
問題はその後だ。
屋敷の前に到着した中学生たちだったが、門は閉まっている。どこからか侵入できないかと屋敷の周囲をうろうろしたのち、痺れを切らした何人かが塀を乗り越えようとして――気がつくと、皆汗だくで山の麓で倒れていたらしい。
その上、メンバーのうち三名がいなくなっており、その三名のうちの一人が志城さんの妹だった。生還した七名は記憶にところどころ欠落が見られ、特にどうやって怪談屋敷から山の麓まで戻ってきたのかはまったく覚えていなかった。
ほどなく町中で騒ぎとなり、当然、失踪事件として警察の捜査も入ったが、なぜか怪談屋敷の詳細については情報が一般に公開されず、失踪した生徒も発見されることなく、結果、噂が独り歩きして……今なお、事件は解決していない。
――と、そういう話だった。
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