怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑯
「そんなデマみたいな噂、学校は放置してて大丈夫なのか?」
「どうなんだろ。怖い話が広まる分には学校も構わないんじゃない?」
「本当か嘘かはどうでもいいって?」
「あくまで噂だからね」
そう語る彼女の言葉が妥当なのかどうか、僕には判断が出来なかった。
「噂うわさって、急に話が適当になってきてない? さっきの屋敷の歴史の話のときはかなり詳しく話してくれたのに」
「うーん。だって、怪談屋敷の話は基本的に過去の話だもの」
「……え?」
「過去の話。歴史の話ね。お屋敷で怪談会を開いていたっていうのは、郷土史の記録に出てくるような昔の出来事。お屋敷に風変わりな地主の一族が住んでいたのは確からしいけど、その一族が影響力を持っていたのだってもう何十年も前のことだし」
「で、でも、あの屋敷自体はいまもあの場所にあるじゃないか」
「屋敷の建物はね。中に住んでいた人たちがいまどうしているのかは、町の歴史の本にも書いてないし、調べている人もいないみたい」
「そんな……」
僕は愕然とする。
「だから私もあなたに聞いたんだよ? 本当に怪談屋敷の人なのかって」
「そう言われてもな……」
僕はあの屋敷について何も知らない。
言われてみれば、志城さんの言い分はもっともだ。いかに古くて大きな屋敷だと言っても、結局は個人の家なのだ。
歴史の話と現在の話は、接続してはいるが、同じではない。
そう考えると、僕に町の歴史や噂について語る志城さんもかなり謎な人物だ。
僕はそんな謎な彼女に言われて一緒に見知らぬ町を歩いている。
しかも住民全員が怖い話をしまくっているおかしな町だ。
はたして、このまま彼女についていって単なる町の名所案内で終わってくれるのか……はなはだ不安だ。
それから。
僕と志城さんは町の中を歩き回った。
寺。神社。祠。石碑。城跡。公園。河川敷。
何もない殺風景な田舎町だと思っていたが、よく観察してみるとそれなりに名所と言うか観光スポットと言うか文化財と言うか、そういうものがいくらかあることが分かった。
もちろんショッピングモールや映画館などの都会的な施設は何もない。
だが、一見してただ古いだけの神社や取るに足らないように見える岩や木でも、志城さんが隣で熱心に解説してくれるので、少なくとも退屈することはなかった。そして志城さんが言うには、それらの史跡のほとんどに怪談屋敷が関係しているというのだが……。
「見て見て! このお地蔵様も当時の名残りなんだよ!」
町を案内してくれている間の志城さんは、ただの郷土史オタクの女子高生で、結局、僕が憂慮したようなことは何も起きなかった。
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