怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑦


 なんだ? こいつはどういう展開だ?

 ずっと誰からも話しかけられないと思ったら、ここに来ての好意的な対応。しかも女子からのアプローチである。いったいどういう風の吹き回しなのか。クラスぐるみの罠か何かではないか……と僕が勘ぐってしまったのも致し方ないことだろう。

 というか。


「……怪談屋敷ってなんのことだ?」


 僕は思いついたままの疑問を口にした。

 彼女は言った。僕が「怪談屋敷の人」だと。


 


 聞いたことのない単語だった。

 すると、


「そうっ、その話なんだけどね!」


 と、志城ししろるりは前のめりになって目を輝かせた。

 圧がすごい。


「あなた、本当に怪談屋敷の人なの?」

「いや、だからその怪談屋敷って何なんだよ?」

「この学校と反対の方角の山のほうにある、あの大きなお屋敷だよっ!」

「……ああ、そういうことか。それなら、その通りだけど……」





 僕はこの町に初めて来た日のことを思い出していた。

 駅からとぼとぼと歩き続け、長い坂道を登った先に現れる、大きな屋敷。

 あの屋敷――つまり僕の現在の自宅だが――のことを言っているのであれば、僕はうなずくより他にない。


「町外れのあの大きなお屋敷だよ?」

「確かにあの屋敷は大きいかもね」

「おおーっ!」


 志城るりが感嘆の声を上げる。

 と同時に、教室にいた他の生徒たちもややざわつく。なんだなんだ。


「名家と名高いあのお屋敷だよね?」

「名家かどうかは知らないけど、古い家ではあると思う」

「おおぉーっっ!」


 感嘆の声に加え、今度はパチパチと拍手をする志城さん。

 いちいちリアクションが大げさだ。

 え、マジでなに?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る