怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った⑧


「えーと……イマイチ状況がわかんないんだけど、それってそんなに感動することなの?」

「感動するよー。まさかリアルであの怪談屋敷の人に会える日が来るなんて!」

「?? そ、そうなんだ……?」

「そうだよー!」


 彼女が何にそこまで感動しているのかは不明だが、質問と返答のたびに身振り手振りを交えてくるのはやめてほしい。さっきから目立って仕方がない。

 おまけに、彼女のみならず遠巻きのクラスメイトたちまでもが何やら態度がおかしいというか、明らかに動揺している様子なのだが……。

 訳が分からず目を白黒させている僕を見て、今度は彼女のほうが怪訝な顔で僕を覗き込んだ。


「……もしかして、ホントに知らないの?」


 わずかに歪められた眉根と、純粋無垢なつぶらな瞳。

 そのまなざしは不躾ぶしつけな疑念を隠そうともしない。





「知らないって、何を?」

「噂だよ」

「噂?」

「うん」

「噂って……何の?」

「あのお屋敷の噂」

「それって……僕が住んでるあの家の噂ってこと?」

「そうだよ。あの、


 山の上の怪談屋敷。

 なんだその怪奇味あふれる不名誉な呼び名は。

 その噂になっているらしい家で、僕は普通に住んでいて毎日生活しているのだが。

 というか、学校で噂になるような家って何だよ。

 ますます訳が分からなくなってきた。

 なお困惑する僕の前へ、志城ししろるりは一歩近づいたかと思うと、少し身を屈めて、





「――みんな知ってるよ」





 それは、誰にも知られてはいけない秘密をそっと打ち明けるような、小さく静かな声だった。しかし、その彼女の声はいやにはっきりと僕の耳の奥に残った。



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