怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った④
「――ということで、これからみんな仲よくするように」
担任教師から簡単な紹介をされる。
僕は促されるままにクラスメイトたちの前でぺこりと軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
そう言ってから、ゆっくりと顔を上げる。
見知らぬクラスメイトたちが、揃ってこちらを見ているのが目に入る。
あるいはそこで、何か気の利いた挨拶の一つでも披露できればよかったのかもしれない。
が、そのときの僕はそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。
なぜか。
僕とてクラスメイトから質問されたときのためにと、一応は何を言おうかあれこれ考えてはいた。せっかくの機会なのだから何か上手いことを言ってやろうとか、いや、平穏な学園生活を送るためには下手なことは言わず、短い挨拶だけで充分だとか。そんなことを思っていたりもした。
しかし――いざ黒板の前に立つと、事前に考えていた内容は全部頭から消し飛んでしまった。
緊張していたというのもあったが、それだけではない。
気づいてしまったのだ。
――見られている。
教室にいる全員が、身じろぎひとつせずに、じっと僕を見ていた。
転校生が自己紹介をしているのだから、見られるのは当然だろうって?
普通はそうだ。
だが、今回の場合にはその「普通」は当てはまらない。
どこが「普通」でないのか。
それは、教室全体を包む状況そのものだった。
教室の雰囲気というか空気が何か――妙なのだ。異様と言ってもいい。
ただ見ているのではない。
誰もかれも切羽詰まった面持ちで、食い入るように僕を凝視している。
――じっ。
いくつもの視線が、まったくぶれることなくこちらを向いていた。
(……な、なんだ?)
ある程度注目されるのは仕方がないとは思っていたが、注目のされ方が何かおかしくないか。
あれだろうか。やっぱり田舎の高校だから都会出身者がめずらしいのだろうか? 最新の話題の提供者たる転校生の一挙手一投足を一瞬でも見逃してなるものかということか? 流行の最先端を狙うクラス内競争原理の表れだろうか?
そっかー! いやあ〜、
……という感じではおそらくない。
僕に注がれるクラスメイトたちの視線には、ただの好奇心とは違う――もっと特殊な感情が込められているように思えてならなかった。
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