怖い話をしてるんだよ、と彼女は言った③



 まず考慮すべきはクラスの人間関係だ。

 事前の調べでは(というかついさっき担任教師から聞いた話だが)、ここの高校では二年生のクラス構成は一年のときからの持ち越しらしい。つまりは二年の四月現在、教室内の人間関係はすでに完成してしまっている状態と思われる。


 そんな中に現れる都会からの転校生――完全なアウェイだ。

 そうでなくとも、田舎の人間は閉鎖的だと聞く。

 部外者がどういう扱いを受けるかは想像に難くない。


 パターンその一、転校生ということで好奇の目を集めてちやほやされる。

 パターンその二、秩序を乱すよそ者として問答無用で排除される。


 大雑把に分けてだいたいこんなところか。あるいは両方のパターンの扱いを受けたあとで忘れ去られるか、はたまた最初からいないものとして腫れ物扱いされるか……。

 どちらにせよ、僕がこの学校で異端者であることに変わりはない。

 不用意な言動は慎んだほうがいいだろう。








 じゃあどうするのが正解なのか?

 どのように振る舞えば円滑にクラスに溶け込めるのか?

 考えれば考えるほどに分からなくなる。

 うーん……。

 ……そう言えば、妹はこんなことも言っていた。




『にいさま、もし学校で上手くいかなかったとしても大丈夫ですよ』


『だってにいさま。にいさまには妹の私がついているのですから』


『ですからにいさま。今日はなるべく早く帰ってきてくださいね』


『いいですかにいさま。


『私はずっと待っていますからね、にいさま』




 ……これはアドバイスというか、ただの慰めだな。もしくは気休め?

 つーか妹の奴、僕が学校で友達が出来ないこと前提で話してないか?

 寄り道するなとか余計なお世話だとしか言いようがない。

 駄目だ駄目だ。

 やはり妹の言葉なんかアテにはならない。

 どうすればいい。

 あー、まったく分からん……。






 待て。

 落ち着け自分。

 冷静になれ。

 なに、あまり難しく考えすぎることはない。いくら見知らぬ相手とは言え、教室にいるのは皆、僕と同じ年齢の高校生。どんな扱いをされたとしてもどうとでもやりようはある。

 たかだか小さな教室の中の人間関係。

 そんなに深刻に捉えることはない。

 なんなら少しハブられたりぼっちくらいのほうが、余計な気をつかわなくて気楽とも言えるじゃないか。


 なるようになるさ。

 未来は明るい。可能性は無限大!

 ハハハハッ!

 ……などと呑気なことを言っていられたのも、教室に入るまでのことだった。





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