待っていましたよ、にいさま⑩



 僕は。

 僕はどうすればいいんだ。

 これではいったい、何のためにここまで来たのかわからない。

 静かだ。しんとしている。誰の声も、何の音もしない。

 誰もいない家。

 何もなくなった部屋。

 急に寒い場所に放り出されたような虚脱感。

 胸の奥にぽっかりと穴をあけられたような虚無感。


 さびしい。

 心細い。


 ああ、こんなに。

 こんなにさびしくなると。



 

 

 ――――


 視界の片隅を何かが動く。


 ――ぞわぞわっ。

 ――――ぞろぞろっ。


 聞こえる。

 聞こえてはいけない声が聞こえる。

 あれは、僕を呼んでいるのか。

 どこかへ僕を誘っているのか。

 声が。

 音が。

 だめだ。意識が侵される。

 黒く、暗い、何かに。

 ああ、あの暗い昏いくらい黒いクライ蔵暗く暗くラククク暗ラライク

 クラクララララララララ――クラくらガクライクライクライ

 くらくくくクライイイイィクらくり――ィ暗い黒クライクライクライ

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 ■■ ■ ■■■■■■■――――……――――……――――……――――……―

 

 く。

 くく。


 ――――暗い。



「――――――――あ」



 黒い影。

 黒い声。


 ――ぞぞぞぞ、ぞわわ、ぞわぞわわっ。

 ――――ぞろろろ、ぞぞ――――ぞぞろぞろろろろろろっ。

 ――――――ぞぞぞっぞぞぞぞおぞ――ぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 ――――――――ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 ――――――――――ぞぞぞぞぞぞぞ―――ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。

 ――――――――――――――ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ――――ぞぞぞぞぞ。


 手足に黒々とした霧状の何かがまとわりつく。

 ザラザラした長い毛の束のようなものが手足に擦りつけられる。

 嗚呼。視界だけでなく、思考までもが黒く染まっていくかのようだ。


 僕は知っている。

 あの、誰もいない家にひとりになってしまう孤独を。

 

 ――孤独?


 そう、孤独だ。


 ――――本当に?


 そうだ。僕は一人だった。


 ――――――そばにいてくれた人はいたじゃないか。


 そうかもしれない。


 ――――――――そうだろう? その人たちはどうしたんだ?


 少なくとも……祖父母は僕にやさしくしてくれた。


 ――――――――――ならいいじゃないか。


 でも…………僕の心はずっと一人だったんだ。


 ――ははははっ。

 ――――我がままなものだね。

 ――――――自分で勝手に孤独になって。

 ―――――――――自分で勝手に無気力になって。

 ―――――――――――なんだい、だってそうだろう?


 ―――――――――――――




 これは誰の声だ。

 あの黒い何かの声か。

 それとも僕自身の声か。

 分からない。分からない分からない。

 だって、僕は一人だから。

 もう何もまともに考えられない。

 だって。

 だって僕は。

 

 何も守ってくれるものがない恐怖。

 何かに怯え続けるしかない不安。

 僕は金縛りに遭ったかのように動けなくなっていた。

 すると。






「――分かりますよ、にいさま。怖いのですよね」









 赤い着物の少女が、僕の耳元でささやいた。

 、と。肌が粟立つ感覚があった。


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