待っていましたよ、にいさま⑥
「ほらほらにいさま、ここまで大変でしたよね。長旅でさぞお疲れになられたことでしょう。今日のところはゆっくりとお休みくださいね。他のお荷物が届くのは明日以降でしたよね? 大丈夫ですよ、すべて私におまかせくださいにいさま。にいさまは何も不安に思うことはありませんからね。何と言ってもにいさまには妹の私がついているのですから。ようやくお会いできて、私も妹として感無量です。いろいろお話ししたいこともありますけども、ひとまずはご自分のお部屋をご覧になりますよね? ええ、にいさまのためのお部屋、ちゃんとご用意してありますよ。お掃除も全部済んでおりますし、お布団の準備も出来ています。ええ、抜かりはありませんとも。と言っても場所が分かりませんものね。いいえ、問題ありません。私がきちんとにいさまをお部屋までご案内いたします。なにぶん使っていないお部屋が多くて……ああ、それともお腹が空いていますか? お食事を先にしましょうか。でしたら、居間のほうで掛けてお待ちくださいな。すぐににいさまの好物をおつくりしますので。ご一緒に参りましょうねにいさま。さあ、居間は廊下を進んであちらで……あらどうかされましたかにいさま、そんなに驚いた顔をされて。それにひどい汗。お食事よりもお風呂が先でしょうか? はいはい、タオルも新品のきれいなものを揃えてありますからね。もちろん替えのお召し物も。にいさま? どうかされましたかにいさま。お口は閉じていたほうがよろしいかと思いますよ……って、ああごめんなさいにいさまこんなこと余計なお世話でしたよね、私ったら。にいさま? にいさまどうしましたか。にいさま? ねえにいさま。もしかしてご気分がすぐれないのでしょうか。お顔が真っ青です。にいさま? 大丈夫ですかにいさま。やっぱりお部屋でお休みになられますか? どうされますか? どうか遠慮なさらずなんなりとおっしゃってくださいにいさま。もし家のことで不便があれば何でも私に聞いてください。にいさまの妹として不肖この私がにいさまのお世話ならどんなことでも――」
少女はぐいぐいと袖を引いて、僕を家の中へと引き上げようとしてきた。
前のめりになった僕は身体のバランスを崩し、片方の靴が脱げかけた。そのままよろっと足がもつれて倒れそうになる。
「ちょちょちょっと待ってくれ!」
「はい? 何でしょうか、にいさま?」
「そのにいさまって何のことだ? まずきみは誰だよ!?」
「あら、にいさまったら……」
ふふっと少女は笑った。
「私はにいさまの妹です。にいさまこそ何を言っているのですか?」
「僕の……妹……?」
僕は少女の言ったことが上手く理解できず、ただぽかんとした。
「僕が兄? きみの?」
「はいっ」
「つまり、きみと僕が、兄妹?」
「はいっ、そういうことになりますね!」
「……それはいったい何の冗談だ?」
「冗談ではありませんよ?」
「いや冗談だろ」
「もーっ、冗談ではないですってば!」
少女は不機嫌そうにぷくーっと頬を膨らませた。
「私はこの家に古来続く由緒正しき正統派妹です!」
何だそれは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます