待っていましたよ、にいさま⑤


「それにしても静かだな……」


 屋敷の中からは生活音の一つも聞こえてこなかった。

 自分の足が敷き石を叩くたびに、妙な緊張感が漂う。

 かつん。かつん。

 一歩、また一歩。門から玄関までの道のりがとても長く感じられた。

 そして、ようやく僕は玄関の前まで到達する。

 古風な木製の引き戸には格子状の枠がはめ込まれている。

 見た限りインターホンの類はないようだった。

 いまどきめずらしい。さすが田舎の旧家だ。

 仕方なく僕は家の中に向かって声をかけた。


「ごめんください」


 ……返事がない。

 おかしいな。家まで行けばあとは分かるという話だったのに。きっと親戚の誰かが事情を聞いて待ってくれているのだろうと思っていたのだけど、違うのだろうか。


「ごめんくださーい! すみません、どなたかいませんかー?」


 何度か呼びかけてみるが、やはり返事はなかった。

 それどころか、家の中からは人がいる気配すら感じられない。

 留守なんだろうか。いやしかし、今日この時間に僕が来ることは向こうも分かっているはずでは。

 僕は試しに、目の前の古びた格子戸に手をかけた。


「あれ、鍵かかってないな」


 軽く引くと、がらがらっと音を立てて戸は開いた。

 すると。

 







「――――待っていましたよ、にいさま」







「えっ?」


 玄関を開けた先にいたのは、少女だった。

 赤い着物の少女。

 赤い着物の少女が正座で出迎えていた。

 一瞬、人形が置いてあるのかと思った。

 それくらいに美しい少女だった。


 年齢は僕と同じか一つか二つ下くらいだろう。

 きれいに切り揃えられた長い黒髪と輝くような白い肌。

 整った顔立ちを縁取る卵形の輪郭。ぱっちりと見開かれた瞳は黒い真珠のように妖しく輝いている――見れば見るほど、非現実的なまでに美しい少女だった。







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