待っていましたよ、にいさま④
「――どこに行くんですか?」
道中、古い小さな神社を通り過ぎた辺りで、突然後ろから声をかけられた。
やや甲高く舌足らずな感じのする声だった。
つられて振り向くと、セーラー服の小柄な女子が佇んでいた。見た感じ、僕より少しだけ年下か。はっきりとは分からないが、おそらく中学生くらいだろうと思った。
「どこって……きみ誰? 地元の人?」
「どこに行くんですか?」
「いやだからさ」
「山のほうに行くなら気をつけたほうがいいですよ」
「なんだって?」
「この土地に不慣れならなおさらです」
どうやらこちらの質問に答える気はないらしかった。
「気をつけるってなんだよ。クマでも出るのか? それとも崖崩れとか?」
「気をつけてください」
「だから何を?」
「私は警告しましたからね」
「そんなこと言われても、僕はこの先に用が……って、あれ?」
何か危険なものでもあるのかと一応、周囲を確認しようとして目を離したほんの一瞬のうちに、セーラー服の女子はいなくなっていた。
「……なんだったんだ?」
誰もいなくなった道で、僕は取り残されたような気分だった。
しかし、あまり気にしていても仕方がない。
僕は再び坂道を登り始めた。
徐々に坂の勾配はきつくなる。
だが、それで眺めのよい高台があるわけでもない。ただのっぺりとした道が続いているだけだ。
うねうねした、しかし険しいというほどでもない山路。
いくつもの曲がり道を何度も乗り越えていく。
進むに従って道を囲む木々の重なりは濃く、鬱蒼としていく。かろうじて見えていた町の風景も、やがて木立ちの向こう側へ隠れていってしまった。
そこへ急に巨大な屋敷が出現するのだから、まあ目立つ。森を抜けた先に立ちふさがる武家屋敷のような純和風の門塀は、視界に入った瞬間にのけぞってしまう程度にはインパクトがあった。
よくもまあこんな辺鄙な場所に、こんな豪奢な家を建てたものだと感心する他ない。
しかし、人が少ないとは言え田舎町。誰がどこから見ているか分からない。
よそものがこんな目立つ家に一人で入っていくところを目撃されたら最後、あっというまに町中の噂になりそうだ……と、要らぬ心配をしてしまう。
そんなこんなで。
僕は初めて訪れた屋敷の前でひとりただただ立ち尽くしていた。
「うーん、入りづらいよなあ……。誰か出迎えに出てきてくれないかなあ……」
しかし、いつまで待っても人が現れる兆しは微塵もなかった。
とは言え、こうしてずっと門の前でしり込みしているわけにもいかない。
今日から僕はこの家で暮らすのだから――。
すでに門扉は開け放たれていた。
ここからは、屋敷の敷地内だ。
ごくりとつばを飲み込む。
意を決し、僕は門の中へと踏み出した。
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