待っていましたよ、にいさま②
「ここが、僕が今日から住む家か……」
三月の終わり。
十六歳、高校一年の春休み。
咲いたばかりの桜が、すでに散り始めていた。そんな日。
僕は初めて訪れた屋敷の前でひとり立ち尽くしていた。
一目見ただけで旧家と分かる古めかしい門構え。両側には漆喰塗りの壁、門の上には黒い屋根瓦。入り口の前から覗くと、門だけでなく内側のほうもなかなか外の見た目にふさわしい造りをしていると分かる。
敷き詰められた石畳と広い庭。
剪定された松の巨木に大ぶりの岩。
さらにその奥には立派な和風の邸宅が建っている。
さすがに池までは備えていないようだったが、全体的にいかにもお金持ちのお屋敷といった感じだ。
威風堂々。古色蒼然。
そういう雰囲気を嫌でも感じる。感じすぎる。
有り体に言えば、少々入りづらい。
それに――、
「……誰もいないな」
昔からある大きなお屋敷というので、何となく親族が大勢いて、地元の人が忙しなく出入りしているような光景を想像していたのだが……。
いまのところ屋敷には家の人間はおろか、近隣住民の一人、猫の一匹すら見当たらない。広い敷地内には自家用車等が停めてある形跡もなかった。
「いや、いくらなんでも人がいなさすぎじゃないか? それとも普段からこんなもんなのか……?」
そもそもが田舎なのだ。
ここにたどり着くまでも大変だった。
駅から徒歩で約一時間。
周囲は見渡す限り山と田畑ばかり。
店もなければ人もいない。
町全体がさびれていて車通りもまばら。
コンビニは駅前に一軒あるのを見かけただけだった。
駅前にも何もないが、そこからの過程がまた長く、また輪をかけて何もなかった。
とにかく閑散とした無味乾燥な道がだらだらと続くのだ。そんなだらだらと続く田舎道をだらだらと歩き続け、単調な町並みにも飽きてくる頃には、もともと少なかった民家すらもなくなっていく。
そういう何もない、どこにでもあるような田舎の町だった。
そう思っていた。
少なくとも、そのときは、まだ。
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