にいさま、怖い話をしましょう③


 僕は再びスマホに目をやる。

 ぴょこん。

 また友人からのメッセージが表示される。


「にいさまってば。いまは私とお話ししているのでしょう」

「いや、うん。もう切り上げるよ」


 仕方がない。妹は一度言い出したら聞かないのだ。

 僕は友人に一度会話を離れる旨の文を打ち込んで送信する。

 やや唐突な終わり方になってしまったが、友人には明日にでも学校で弁解しておくとしよう。


「ごめん、もう大丈夫だよ」

「では早速、私と一緒に怖い話を……」

「だからそれはしないというのに」

「えー」

「えーじゃない。いつも言ってるけど、二人だけで怖い話して何が楽しいんだよ」

「大丈夫です。私はにいさまとなら何十話でも何百話でもイケます」

「二人しかいないのに怖い話オンリーで何時間続けるつもりなんだ……」


 兄妹二人で怖い話を何十話何百話って、どういうモチベーションで話せばいいんだ。絶対に十数話くらい話した辺りでネタ切れになる。普通の高校生に期待していいポテンシャルではない。

 普通の高校生という点では、妹も僕と年齢はそう変わらないはずだが、妹のほうの怖い話ポテンシャルがどうなっているのかは知らない。なんとなくだが、知らないままのほうがいいような気がする。






「だいたいもう何度目だよ、お前と怖い話するの」

「何度してもしたりないということはないですよ、私は」

「前回で最後って話じゃなかったのか」

「私はそんなこと、一言もいってませんよ?」

「普通、同じ面子で何回もするもんじゃないだろ、そういうの」

「私はにいさまとなら、何回でもしたいですけど?」


 などと言いながら妹はジリジリとこちらに擦り寄ってくる。

 その目は僕を視界の中心に固定していて、少しもブレる隙がない。

 心なしか息も荒い。

 狩りだ。あれは、獲物を狩るときの目だ。

 てか、近い近い近い。

 グングン急接近してくる勢いに耐えかねて、僕は妹から顔をそらす。


「僕は無理だな。昨日までで有名どころは大方話しちゃったし、マジでもう知ってる話がない」

「そこをなんとか」

「無理なもんは無理だ。僕の持ち合わせてるネタじゃお前の期待には沿えないよ、きっと」

「構いません。にいさまが足りない分は、妹の私が補いますので」

「補うとか補わないとかいうことじゃなくてだな」

「それでは始めましょう、めくるめく恐怖の一夜を!」

「聞いてねえし」

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