一人でいるのが

聞こえてきたのは、おそらく日比の親への悪口だった。何でその話になったかは、わからない。ただ、一生でさえも、頭に血が上った。反吐が出そうなほど腹が煮え繰り返った。それを日比は笑顔で受け止めていた。腹が立った。どうしようもなくイラついた。仮面は吹き飛んでいた。

再び上ってきた怒りに乱暴に大きなバックに荷物を詰め込んでいると、部屋のドアが開いた。

「土倉、」

振り向くと日比がいた。一瞬で怒りは吹き飛び顔が強張る。手を止め、腹に力を込めて、

「前に変なこと言ってごめん。あと、さっきは余計なことした。」

しっかりと日比の目を見た。そして、腰を追って頭を下げた。

「俺は、お前のこと眩しくて眩しくて仕方ない。俺に手に負えないほどいい奴だ。だから、関わらないでほしかった。俺はお前の思ってるほどいい奴じゃない。」

意外にも日比の前ではすらすらと言葉が出た。しかし、それは心の底からの本音だった。

「くっだらない。」

ぶっきらぼうに呟く声に肩が震えた。

「頭上げろ。俺にそういう趣味はない。」

頭を上げた一生を「不器用な奴め。」と日比はこずく。「お互い様だろ。」と答えようとして、喉の奥がつっかえた。泣き出しそうだった。ピンと張っていた緊張が溶けて、鼻の奥がジンとした。

「一人でいるのが好きか?」

「…偽ってヘラヘラ笑ってるって馬鹿みたいだから。波紋に流されないように耐えてる方がよっぽど楽だった。」

「波紋?」

「お前はいつも波紋のど真ん中にいて、俺はいつもその波紋に流されないように必死で耐えてる。俺のしてることは全部間違っていて、皆のしてることは全て正しい。」

日比は目をパチクリしながら、いやいや、と胸の前で手を振った。

「違う。お前だけの波紋が、俺の波紋とか皆の波紋を打ち消してたんだろ。みんなお前のこと怖がってるぞ。」

今度はこっちが目をパチクリする番だった。

「皆が、俺に??」

「特に花巻。」

「俺は皆が怖かった。特に花巻。睨まれて死にそうだった。」

おもしろ。笑う日比に釣られて引き結んでいた口を緩める。

「俺は、一人でいることが大嫌いだ。」

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