約束

数日後、震える手で返却されたテストを持つ一生に、いつの間にか、自席に近づいてきていた日比がそっと手を振った。

「アニメの主人公が敵にやられる寸前で、最終的に一番力発揮する手前の顔してるけど、大丈夫そ?」

「どんな顔だよ。」

思わず突っ込んだ一生を気にせず、ちゃっかり一生の答案をのぞこうとする。慌てて日比の手を押しとどめると、解答用紙にクシャッとシワがよった。随分と縁起が悪い。

「テスト、土倉でも悪かったんだな。俺も今回一番悪い点は50点だ。」

何だよ、その驚愕の表情。と、不服そうにつぶやいたのは、聞こえなかったことにする。

「土倉はどうだった?」

「言わない。」

「お前と一緒に夏期講習行くかどうかにかかってるんだ。」

「一緒に行く前提なのかよ。」

「相変わらず冷てーな。結局行かないのか。残念。」

「そもそも俺なら、委員できてるけど。」

「…っ!まじ?」

「うん。」

なんだその微妙な間は。「席付けー」という担任の声にさっさと帰れよ。と視線を向けると、また今度会おうな、と返された。委員で学校に来ているのは、特定の日であり、夏期講習の日程と重なるとは限らないということを、日比はすっかり抜け落ちているようだ。

夏休み中の学校での諸注意を聞きながら、机の上に散乱している解答用紙と答案をかき集めて、割と雑にファイルに突っ込む。その後に、日比が担任から夏期講習用のプリントを受け取っているのが見えた。

終礼、掃除を終え、なおも追いかけてくる日比を振りきって、一生は歩道を歩いていた。遠くまで広がる真っ白な空は、決して晴れ空とは呼べないが、かといって、雨が降りそうというわけでもない。

危険人物、つまり日比と、連絡先を交換してしまった。空を見上げていたのは、その事実の現実逃避というわけではない。むしろーー。片手に持った、手提げが、今にも鼻歌でも歌い出しそうに揺れている。しかし、一生の心はこの空と同じようなものだった。

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