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 そんなニーナを構いつつ、ガラクタになったボットを見る。あれだけの騒ぎで援軍もいないとなると、本当に何も残っていないのだろう。あとはイザナミを止めるだけなのだが、問題があるとしたら――

「どーやって上に昇るかねえ」

 イザナミの言葉通りならエレベーターもすべて止められているだろう。奴が管理すべてを担っていたとなると、上に行くのは至難の業になる。考えてから「いや待てよ」と思っていたことを口にした。

「ニーナ、どうやってここまで来たん」

 彼女は『上から降ってきた』のだ。おおよそ予測はつくが、念のため聞いておいたほうがいい。

「つうきこう……だくと、とおってきた、です」

「やっぱりか」

 彼女の身体能力と大きさであれば通るのもたやすいだろう。ダクトであれば上に行ける場所もあるだろう。

「……」

 ニーナによって壊された通気口を見る。念のためダクトに入ってみる価値はあるだろうか、と思っていたところでエイトからストップが入った。

『一花、あなたの体重と体格ではダクトは無理です』

「ですよねー……」

 二メートル近くある身長と、恐らく百キロは優に越えている体重では、容量オーバーでダクトが壊れる。仮に入れたとしても確実に身動きが取れないだろう。

『なので、別の道を使いましょう』

「別の道……」

『はい。上層部から最上層部へ行くには基本的にエレベーターに乗る必要があります』

「うん」

 そこまでは理解している。だからこそイザナミはエレベーターを止めたと言っていた。だが、エイトはふわふわと浮いて何処かに向かおうとしている。首を傾け疑問に思っていれば奴は機械音と共に言葉を発した。

『ですが、仮に今のように電気が止まった場合、どうやって行き来しますか?』

「…………あっ」

「かいだん?」

 エイトの問いかけにニーナが答える。ずっとエレベーターに乗っていたから盲点だった。こんなでかい建物なのだから、そりゃ階段くらいあるだろう。前回の襲撃の記憶が歯抜けどころかほとんど無くなっているせいで、エイトに言われるまですっかり忘れていた。

『正確には非常用階段ですが、このタカマガハラにもいくつか点在しています

 ただし、上層部(ここ)は最上層部を繋ぐ階段のみですが……』

 機密情報の多さからか、万が一を考えて中層部以下に続く階段はない。だからこそ、イザナミの暴挙から逃げられず酷い有様だったのだ。

「でも、それだと階段とか見張られてるんじゃねーの?」

『いいえ、監視カメラに死角があるように、全ての管理を担うイザナミにも必ず死角はあります』

「そこを突いて移動すると」

『肯定……非常に悔しいですが、アナログという手段は、時としてデジタルよりも優れているのです』

「まぁ、いくら機械が優秀でも、物理的に壊されたら終わりだもんな」

 俺の言葉にエイトは頷き、廊下をふわふわと進み始める。そのまま後ろをついていくと少し考え込むような声で話しかけてきた。

『そして、前回の襲撃を踏まえ、イザナミも我々が階段から来ることは予測しているでしょう。あれは、我々を仕留めるためなら手段を選ばないはずです』

「そうだろうね」

 長くもない距離を歩き、エイトが唐突にマニピュレータを伸ばす。何の変哲もない廊下の壁を押すと、そこに長方形の亀裂が入り入口が現れた。中を見てみると足元を照らす灯かりという最低限のものしかなく、黒い鉄製の螺旋階段が生えている。更に上を見れば、まるで吸い込まれそうな洞が、ぽっかりと天に向かって空いていた。

 ここに踏み込んだら、もう後戻りはできないだろう。

 無意識に以前貫かれた腹の辺りに触れる。

『そこで……一花、提案があります――これは、当個体もできうる限り使いたくはないのですが……』

 その言葉を聞いて振り返ると――表情は分からないのに――いつも以上にまじめな顔をした球体と目が合った。

「…………」


 エイトの提案を聞いて思案する。

 俺の事を心配している球体は申し訳なさそうに浮遊しているが、最初から答えは決まっていた。

「わかった。それでいこう」

「いち」

「大丈夫だよ」

 ニーナの頭を撫でてそう言うと、渋々といったような表情を見せた。頭のいい彼女の事だから、俺とエイトの意図も理解しているのだろう。

『覚悟は?』

「できてる」

「にーなも」

 そう言うと、彼女はするりと俺の腕の中から飛び出して、代わりに俺の手を握る。

「よし、行くか」

 そうして、俺たちは暗がりの中に一歩踏み込んだ。

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