4
エイトから許可が出るまで休憩した後、改めて執務室をぐるりと見渡した。この一角だけ争いとは無縁の場所のように見えて、エレベーターホールの惨劇が無ければ、放棄された場所なのだろうと思ってしまう。
疑問に思いつつ応接セットの奥にある机に近づけば、タブレットのような物が見つかった。試しに触れてみると、なんと電源が入ったではないか。
「マジか、生きてた」
『辛うじて電源コードが刺さっていたようですね。経年劣化により長時間の使用は難しそうですが』
「そうだろうね」
だが、パスコードが分からない。適当に数字を打ってみたが当然反応はない。エイトをちらりと見ると、仕方ないとばかりにマニピュレータを伸ばして、あっさりとパスコードを解除した。
「あんがと」
『朝飯前です』
俺が知っているタブレットとどうやら殆ど同じらしい。四角い薄い板の画面をスワイプしてみるとメモ帳のようなものがあった。
「なんだこれ……」
興味本位でタップすると、そこには文字列のようなもの。読めないのだが、文章か日記だというのは理解できた。
「エイト、ごめん……これ読める?」
『暫くお待ちください』
じりじりと機械音がして、エイトがそれを読み込んでいるのがわかる。ちかちかと数回光が点滅してから平坦な声が響いた。
『航海日誌のようです』
「まぁ、移動都市だもんな……日付は?」
『二十一年前です』
それからエイトは二十一年前、日付が途切れる前の日記を読みだした。
曰く、二十二年前に起きた『大戦』以降、このタカマガハラに何か異変が起きている事。マザーロボットであるイザナミの自動演算に、注意しなければ分からない程の『ずれ』のようなものが起きている事、そして近々イザナミの回路に以上がないか検査し、必要があればデータのリフレッシュを行う事が書かれていた。
その一つ前の日記は、本来の航路から外れているという内容。その前も、その前も……その場ではあまり大ごとにならないような、些細なエラーが発生していた。
「……エイト」
『なんでしょう』
「お前、下の階で俺たちの邪魔をしている奴に見当が付いているって言ってたよな……」
さすがにここまでの内容を見ると、嫌でも勘づくだろう。
『……はい。恐らく一花の考えている通りでしょう
マザーロボット【イザナミ】は何等かの理由で本来の機能を発揮できていない
それどころか、我々の敵である可能性が充分あります』
「あーあー……まじか……」
薄々思っていた事だが、まさか本当の事だとは……。
何が原因で狂ったのか、日記に理由が書かれていないので定かではないが、この移動都市丸ごと惨殺した可能性の方が高い。ぼりぼりと後頭部をかいて、息を吐くとエイトが声をかけてきた。
『現時点でイザナミとの直接的な接触はありません。推測ですが、現時点でもう彼女に力は残っていないのでしょう。ロボットは自己回復はできますが、それでも人間がいなければ細かいメンテナンスができず経年劣化し、やがて死に絶えます
一花、貴方の事を調べるのであれば今です。それに、外に出るにしてもどのみち進まねばなりません』
「……わかった」
危ないが、ここで閉じこもっている訳にもいかない。死んでしまっては何も成せなくなる。
「けど、危なくなったら外に逃げるのを最優先にしよう」
『わかりました。貴方をサポートするのが当個体の役割です』
「にじゅうななごう、も、いっしょ」
「ん」
大きく息をはいて、俺たちは再び血の海が残る廊下に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます