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『それで、これからどうするのですか』
思考していたところでエイトに声をかけられる。無論、目的は変らず、上に行って俺が一体何者なのかを調べるというものだ。だが、それよりも
「俺の経歴を調べる……それからここを出て、空を見る」
『空、ですか』
エイトの意外そうな言葉に苦笑して、先ほどの植物園で見た空について話す。タカマガハラを歩いているときに分かった、この場所の歪み。あんな偽物ばかりの空を見て、生を否定しているあの場所で、一生を終えるのは嫌だ。
「俺たちが出るのを邪魔しているのなら、そいつを退けて外に出るだけだ」
それに、と続ける。
「ニーナとも約束したからな
本物の空を一緒に見ようって」
そう告げると、エイトは頷くような素振りを見せた。
『わかりました』
奴にしてはあっさりとした回答と共に、マニピュレータを伸ばしてくる。拳のように握られたそれに、自分の拳と合わせる。何の意識もしていない、自然な動きで妙にしっくりときた。前にこういった事があったのだろうか、と朧げすらない記憶を辿る。が、やはりわからなかった。
「いち?」
「ん、なんでもない」
ぎゅっとニーナに手を握られ、何でもないと首を横に振る。少しだけ心配そうな彼女の頭を、空いているもう一方の手で撫でた。そうすると、何故か抱き着いてきた。丁度いいので、体重の軽い彼女の身体を抱きかかえる。
『随分と懐かれましたね』
「そうか?」
『そうです』
俺のパーカーを握って首筋に顔を埋めるニーナを見て首を傾げる。元が元なだけにあまり懐かれたという自覚はないのだが、エイトが言うのだからそうなのだろう。
「まぁ、そうなら嬉しいんだけど」
そう自分に言い聞かせて、今まで話していたことで沸いた疑問をエイトにぶつけた。
「そういえば、なりすましできたって事は、もう上層部へ行けるってこと?」
『肯定……抜き取ったIDが特定されていなければ、エレベーターを使用しすぐにでも行けると考えています
現時点で当個体はこの移動都市全てのネットワークシステムを遮断しているので、特定の確率は低いと考えております』
「なるほどな」
そうであれば、急いだほうがいいだろう。先ほどの嫌な視線から推測するに、もしかしたら件の邪魔をしている奴が、何かをしでかすかもしれない。
「なら、早いところ移動しよう」
『承知いたしました』
エイトにそう告げると、奴はふわふわと動いて入口に立つ。
『一花』
「どうした」
『いえ……ただ』
珍しく言い淀むエイトは、少し黙ってからこちらを向く。
『共に来れたのが一花でよかったと、当個体は考えております』
「エイト……」
ちかちかと点滅するライトを見て――
「……それは死亡フラグになるから、止めておけ」
『相変わらず失礼ですね。あなたは』
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