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 自分の転生先が、まさかのハードモードに驚きを隠せないが、こんな無機質な場所で二十年以上も眠っていたのだから、仕方のないことなのだろう。


 デッドエンドも前提知識がないから回避できない。チートスキルなんてものも、恐らくないのだろう。あるのは『オニ』と呼ばれた自分の身体一つ。


 「もしかして、希代の魔王かもしれない」という、ほとんど望み薄な淡い期待も、球体の答えで打ち砕かれた。


『バイタルが低下しています。血管が収縮し、体温が急激に下がっています

 速やかに身体を温める事を推奨します』

「大丈夫……ちょっと受け入れがたい事を必死に処理してるから……」

 こみ上げる吐き気をどうにか抑え、球体に返事をする。転生した主人公たちは、何で普通にほいほい受け入れられるのか不思議で仕方ない。大好きな〇〇の世界にーとか、転生者は全員お気楽すぎるだろ。

 息が上がり、ぼんやりとしてくる。過呼吸だと気づいても、身体は凍ったように動かない。俺の姿を見てか、球体のカメラ部分が数回点滅し、機械音声が部屋に鳴り響いた。


『人は……感情に左右される生き物だと認識しています』

「…………」

『絶望し、受け入れがたい事があったとしても、最終的に立ち上がることができるのだと』

「……随分と、人らしい答えだな」

『ええ、当個体には備わっていない機能です

 人の心や感情というものを模倣できても、真に理解することは、どの機械生命体も未だに成しえていません』

 無機質な声が演説を続ける。

『ですので――死ぬのであれば、当個体を修理してから死んでください』

「そこは、普通に生き延びろじゃないの?」

 思わぬ言葉に思わず笑いが込み上げた。何希望にとどめさしちゃってるの、この機械は。

 けれど、球体の言葉に今まで起きていた頭痛も吐き気も、不思議と収まっていく。


『生き延びる確率が低いのであれば、とどめをさすのも、また希望であると』

「どこのデータベース参照よ」

 破滅願望者のような持論にツッコミを入れて、球体を持ち上げる。二十年近くも俺の安眠を見守っていたのだ。だったら恩を返すくらい問題ないはず。


「とりあえず、まずは服だな……」


 後ろ向きな、よくわからない希望を持ったところで、急に自分が丸裸なのを思い出す。果たしてこの無機質な部屋に、物資はあるのだろうかと散策し始めたところで、球体が話しかけてきた。


『まだ貴方の名称を当個体に登録していません』

「そういえばそうか……

 一花(いちか)、そう呼んで」

『了解しました。当個体に、名称【一花】を登録します』

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